製造業に欠かせない工業簿記とは?商業簿記との違いやその仕組みを解説!

製造業に欠かせない工業簿記とは?商業簿記との違いやその仕組みを解説!

こんにちは。「クロジカ請求管理」コンサルティングチームの花田です。

企業の経営や経理の仕事に、簿記の資格は必須ではありません。しかし実際に仕事をしていく上で、経営者や経理にとって簿記の知識はかかせません。特に自社で製品を製造・販売する製造業においては、製造業特有の「工業簿記」の知識がないと、自社の財務状況を把握するのも困難になってしまいます。

今回は、製造業に必要な工業簿記について解説していきます。簿記の種類や、簿記の代名詞ともいえる商業簿記との違いについても、詳しく見ていきましょう。

製造業が工業簿記を使わなかったらどうなる?

製造業が工業簿記を使わなかったらどうなる?

製造業や建設業など、「ものづくり」を営む業種は、小売業やサービス業に比べて、少し複雑な会計処理が必要になります。

前者は工業簿記(建設業は建設業簿記)、後者は商業簿記を採用する必要がありますが、実は規模などによって、製造業でも商業簿記を採用している企業も少なくありません。もしも製造業が工業簿記を使わずに、商業簿記だけで会計を管理していたらどうなるでしょうか。

セーターを製造販売しているA社を例にとって、みていきましょう。

例)セーター製造販売会社 A社

販売単価:¥5,000、今期10,000枚製造、7,000枚販売
今期材料仕入高:¥15,000,000円(1枚当たりの材料費を1,500円とする)
事務所経費:¥600,000円
工場経費など:¥1,800,000円
人件費:¥15,000,000円
従業員は5人とし、A社でセーターを製造する従業員は4人(人件費の4/5)とする

A社が工業簿記ではなく、商業簿記を使っていると何が起きるのでしょうか。

粗利がわからない

商業簿記を使って記録・集計することで、最終的に黒字だったのか赤字だったのかを知ることはできるでしょう。

しかし、工業簿記を使って原価の計算をしていなければ、製品をいくらで作って、いくらで売ったのか、そしていくらもうかったのか、すなわち「粗利」がわからないのです。

商業簿記と工業簿記では、粗利の計算方法が違います。

下の表で実際に確認してみましょう。


商業簿記工業簿記
①売上高(5,000円×7,000枚)35,000,00035,000,000
②売上原価当期売上分に対しての仕入高1,500円×7,000枚=10,500,000当期売上を作るための原価(材料費10,500,000+賃金12,000,000+工場経費など1,800,000=24,300,000円
③粗利(①-②)24,500,00010,700,000
④販管費17,400,0003,600,000
⑤営業利益(③-④)7,100,0007,100,000

同じ数字を使っているのに、商業簿記と工業簿記では粗利の計算結果に大きく差が出ます。

商業簿記では②に当期の売上に対しての仕入高を計上しますが、工業簿記では「製品を作るための原価」を計上します。製品を作るために直接必要な、材料・賃金・家賃や機械などの減価償却費もここで計算にいれるのです。

粗利は、会社の基本となる、最も注目するべき利益です。この粗利の数字は製造業にとって大きな意味を持ちます。マイナスであれば、自社製品の品質やサービス、価額が自社の価値として世の中に受け入れられていないことを意味します。付加価値を高めて価額を上げるか、コスト削減により原価を下げる、もしくはその両面の施策が早急に必要になります。黒字であったとしても、工業簿記を採用していないと、原料となる毛糸が安い時期に一括購入して、材料費を抑えたことによるものなのか、それとも事務員の在宅勤務による経費削減によって起きたものなのか、分析することが困難です。

工業簿記でしっかり粗利を把握しないと、この大切な企業判断ができなくなってしまいます。

注力すべき製品がわからない

先ほどはわかりやすくA社を1製品のみ製造していると例にあげましたが、実際にそのようなビジネスモデルは多くはないでしょう。デザイン違いや素材違い、色違いなど多くの商品を取りそろえているはずです。

その製品のうち、どの製品、どの色が1番売れたのかは、販売履歴をみれば一目瞭然でしょう。しかし、利益率は製品によって違うはずです。

「この商品はよく売れるけれど、手間がかかるから売れば売るだけ赤字」という製品があっても、工業簿記を使って製品ごとの原価計算をしていないと、それに気付けないのです。

他の売れ筋製品の半数しか売れていない製品でも、付加価値が高く売値が高くても買手がつく、利益率が高い製品があるのかもしれません。

工業簿記を使って製品ごとに原価計算をし、利益率を集計することで「どの製品に注力するべきか」という経営判断を常にとっていくことができます。

見積ができない(適正な販売価額がわからない)

注文の際に「いくらで作れる?」「100枚頼んだら安くなる?」などと聞かれることもあるでしょう。工業簿記で原価計算をしていないと、適正な回答をすることができません。「100枚注文なら二割引きでお売りしますよ」などと、なんとなく値段を決めていると、製品を売れば売るほど赤字になってしまいかねません。

例を挙げてみましょう。手編みのセーターと、機械編みのセーターにかかる人件費をイメージしてみてください。手編みのセーターは、1枚1枚職人が編んでいきますから、100枚作れば1枚分×100の人件費がかかってきます。納期によっては残業代も発生し、割高になるかもしれません。しかし、機械編みのセーターであれば、作業者が機械に段取りする時間は、「1枚も100枚も変わらない」可能性があります。

自社製品について、こういった事情を製品ごとに全て飲み込んでいるのであればいいかもしれません。しかし、実際には材料費が高騰していたり、社内製造ではなく外注に切り替えていたりと、多岐にわたる細かい事情が発生していきます。

それを工業簿記によって数字に落とし込んでいくことで、タイムリーにわかりやすく見積価額や販売価額に反映させることができるのです。

工業簿記と商業簿記の違いとは?

次に工業簿記と、小売業やサービス業で採用される商業簿記との具体的な違いをみていきましょう。

原価計算の違い

上述したように、商業簿記と工業簿記では粗利の計算方法が大きく違います。それは原価計算の違いによるものです。

企業とは「営利を目的として継続的に生産・販売・サービスなどの経済活動を行う組織」です。利益なくしては企業の継続ができないので、「いくらもうかったのか」を計算することは、非常に重要です。「いくらもうかったのか」を知るには、「いくらで売ったのか」と「いくらで仕入れた(作ったのか)」の2つの数値が必要です。

セーターの原価計算に当たって必要な要素は、以下の通りです。

  • 材料費(毛糸・ボタン・糸・タグなど)
  • 人件費(セーターを作るためにかかった人件費)
  • 外注費(外部に製造を委託した場合)
  • その他経費(工場の賃借料や水道光熱費など)
  • 減価償却費(セーターを作るための機械や建物設備など)

ざっと並べてもこれだけありますが、ここでは材料費を例にとって考えてみましょう。製造する際に、1枚ずつの注文の都度、1枚分の材料を仕入れ、1枚製造して販売する流れであれば、材料費の原価計算はそれほど難しくはないかもしれません。

しかし、多くの製造元では顧客の注文に迅速に対応するため、常にサイズ違い・色違い・素材違い・デザイン違いなど、様々な製品をある程度のロット数で製造し、取引先からの注文に備えていることでしょう。取引先への販売価額が同じでも、サイズが違えば使う毛糸の量も異なってきます。色違いでも毛糸の仕入れ値が違うかもしれません。また材料を仕入れる時期や社会情勢によっても、仕入れ値は変動していきます。極端に言えば、100枚同じセーターを製造しても、先月製造した100枚と今月製造した100枚では、材料費が異なるケースが多分にあるわけです。

材料費ひとつをとっても、「このセーターを1枚作るのにいくらかかったのか」を構成する要素はこれほど多く、そのほかの人件費などについても、同じようなことが言えます。自社内で製造したのか?(外注費の有無)、何時間かかったのか?(人件費)特別な技術が必要な工程があるか?(人件費や減価償却費)どの機械を何時間使ったか?(減価償却費)など、原価計算に織り込む必要があるのです。

工業簿記では原価計算をし、貸借対照表・損益計算書に加えて製造原価報告書を作成します。

勘定科目の違い

期末のセーターの完成品を商業簿記では「商品」、工業簿記では「製品」と表記されるなど、勘定科目にも違いがあります。普段の生活の中では、同じような意味合いで使われる両者ですが、簿記の勘定科目では下記の通り明確に区別されています。

  • 商品……販売を目的として取引先から仕入れた物品(加工せずにそのまま販売するもの)
  • 製品……自社で製造または加工して販売する物品

また、原価計算が必要な工業簿記には、商業簿記にはない特有の勘定科目が存在します。

  • 材料費……製品を作るための材料
  • 労務費……工場の作業員などの賃金
  • 経費……そのほか製造のための機械リース料や、工具、工場の水道光熱費など
  • 仕掛品など

また、材料費・労務費・経費はさらに直接費と間接費に分けられます。

材料などは、どの製品にかかったものかを明確にすることができますが、水道光熱費やどの製品にも使用する工具、接着剤などは、どの製品にどれだけ使ったのかわかりません。

明確にできるものを製造直接費、できないものを製造間接費として計上します。

棚卸資産科目の違い

商業簿記では、セーターの完成品の枚数×仕入価額が棚卸資産として「商品」に計上されます。

しかし実際には、完成品の他にも、毛糸のままのもの、作りかけのもの、取引先に納品まちのものなど様々な状態で存在します。それらを数値(金額)として資産計上するために、「製品」「材料」「仕掛品」などといった、特有の棚卸資産科目を使います。

  • 製品……完成品のセーター
  • 材料……加工前の毛糸・タグなどのセーターを製品にするための直接の材料
  • 仕掛品……身ごろだけできあがっているものなどの、未完成のセーター

商業簿記のように製品だけを棚卸資産として計上すると、当期にいったい材料費がいくらかかったのか計算することができません。

また、期末の仕掛品が多いと売上低下の原因になったり、労務費や製品の品質にも影響を及ぼしたりします。こまかく棚卸をすることは、原価管理においても、生産性の管理においても製造業にとって非常に重要なのです。

そもそも簿記とは?

ここまで工業簿記について解説してきましたが、そもそも簿記とは何を指しているのでしょう。簿記の意味と、そのほかの簿記の種類についてみていきましょう。

簿記とは、簡単に言うと「お金やものの出入りを帳簿に記録すること」を指します。もう少し専門用語を組み入れて説明すると「企業などが企業活動の取引により生じる資産・負債などの増減を管理し、併せて一定期間内の収益・費用を帳簿に記録すること」となります。

簿記には企業活動の内容に応じた手法があり、代表的なものとして商業簿記と工業簿記が挙げられます。簿記の入門講座、全ての簿記に共通する基礎部分が商業簿記です。そのほかの簿記は、各業界特有の、商業簿記に加えてさらに必要な簿記、というイメージです。

商業簿記

完成している商品を仕入れて販売する、小売業などといったビジネスモデル企業の、財務状態を管理するための記帳方式です。

最もポピュラーな簿記で、製造業以外の多くの業種が対象です。そのため、一般的に「簿記」というと、商業簿記を指していることが多いでしょう。工業簿記など、そのほかの簿記の基礎となり、どの業種においても必要な会計処理の基盤になります。

工業簿記

材料を仕入れ、製造し、出来上がった製品を販売する製造業の、財務状態を記録するための記帳方式です。材料を仕入れ、製品を製造する過程の中で「原価」を計算するのが、工業簿記の大きな特徴と言えます。

例えば、自社の製品を10,000円で取引先に販売した場合、「その製品を作るのにいくらかかったのか?」という部分がわからなければ、利益の計算ができません。

製品を作るのには、材料や部品の購入、加工費や人件費、工場の家賃や機材など様々な経費が存在します。

いくらかかったのか?つまり、原価計算ができなければ、妥当な販売価額をつけることさえできず、製品の採算がとれているのかわからないのです。工業簿記の主な目的は、原価計算をして製品の製造原価を計算することです。

その他の簿記

建設業簿記

建設会社や工務店などの、建設業で使われる簿記です。

建設業も「製品(建物)を作って(建てて)販売する」のだから、製造業と同じ工業簿記でいいのでは?と思うかもしれません。しかし、ここには建設業特有の事情が発生します。建設業では、建物が完成・販売した時点で売上高を計上せずに、工事現場の進捗に合わせて売上計上を行います。

建物が完成・販売するまでのリードタイムが他の業種よりも長いため、売上計上のタイミングをそこにしてしまうと、いつまでも売上高がゼロになってしまい、正しい損益の状況が把握できないからです。建設業簿記では、完成工事高、完成工事原価など、建設業特有の勘定科目を使います。

銀行簿記

銀行や証券会社で用いられる簿記です。商業簿記の仕組みを基本とし、「毎日残高試算表」を作成する、すべての取引を現金仕訳するなどの特徴をもちます。

また、他の企業にとって資産科目である「預金」が、負債科目に属することも大きな違いです。

他にも・・・農業簿記、漁業簿記、林業簿記、官用簿記、農協簿記、社会福祉会計簿記と様々な簿記があります。

まとめ

  • 製造業が工業簿記を使わないと粗利がわからず的確な経営判断ができなくなる
  • 工業簿記を使って原価計算をすることで、粗利や注力するべき製品を分析することができより的確な経営判断をし続けることができる
  • 工業簿記と商業簿記では粗利の計算方法や勘定科目の違いなどがある
  • 簿記とは「お金やものの出入りを帳簿に記録すること」を指す
  • 簿記には基礎として商業簿記があり、製造業はさらに原価計算を目的とした工業簿記が必要である

今回は、工業簿記について解説しました。

工業簿記の大きな特徴である原価計算は、会社の規模や製品の製造過程、費用の振り分けの考え方など、非常に多くの要素が含まれます。

工業簿記への理解を深め、適正な原価計算をすることは、企業の競争力をあげることに直結します。

商業簿記の業種でも、原価計算を理解することはビジネスに非常に有用ですので、小売業やサービス業の方もぜひ知識を身につけておきたいものですね。

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