こんにちは。「クロジカ請求管理」コンサルティングチームの花田です。
サブスクリプション型サービス契約では、顧客が契約に基づいた対価をサービス提供企業へその対価に見合ったサービスを支払う仕組みとなっています。課金体系は一般的に月額制が最も多く、数か月間の契約、年間契約があり、自動更新契約となっています。
このような多様な請求において、顧客が一定期間分の代金を前払いすることで割引を受ける場合があります。サービス提供企業からみれば、役務提供を実施していないにもかかわらず将来の代金を受け取ることになりますので、収益に計上せず「前受金」として認識します。
サブスクリプションビジネスの前受金の定義
たとえば以下のような取引では前払いを受けた金額のうちサービス未提供期間に応じた金額が「前受金」となります。
前提:サブスクリプションサービス契約を締結により12か月分の代金を一括で収受時
- 通常ではひと月あたり1,100円、毎月支払い時の年間累計額は13,200円
- 顧客は前払いによる10%割引を目的に11,880円をサービス提供企業に一括で支払い
- サービス提供1か月経過後の前受金の残高は11,880円の11か月÷12か月で10,890円
前受金の返金が発生する要因と会計処理
サブスクリプション契約の解約
一般的なサブスクリプション契約は、顧客がいつでも契約できる反面、いつでも解約が可能です。このような場合を想定し、顧客にサービスを提供する企業は、あらかじめ契約書に返金ポリシーを明記しており、おおむね以下のパターンで対応されます。
- 顧客都合の場合はいかなる事情があっても返金はしない
(たとえば契約の途中で解約があっても、残りの期間に対応する代金の返金はしないなど) - 解約に伴う違約金を差引いて顧客に返金する
(たとえば半年間未経過時の解約時には半年分に相当する代金を違約金として収受し、残りを返金するなど) - サービス未提供期間に応じて顧客に返金する
(たとえば11か月間の未経過期間があればその期間に対応する代金を返金するなど)
パターン別の会計処理
顧客都合による解約で前受金を顧客に返金しない場合
解約日(あるいは契約の有効日)をもって両者の合意に基づいた契約終了日になり、その時点で前受金の全額を収益に計上します。
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顧客都合による解約で前受金を顧客に返金する場合
前受金を計算するためにサービス未提供期間がいつからいつまでになるのかが重要になります。多くの場合、顧客が解約の申し出をしても顧客は当月末までサービスを利用できると契約で明記しています。その場合は翌月の月初日を起算日として契約の終了日までを月割りで計算します。そして当月分までを収益に計上するとともに、翌月分以降に対応する代金を前受金の返金対象とします。
違約金については、契約が終了時点でその違約金を一括で収益に計上することになります。
前受金がいくらになるかは会計ルールに基づいて決まる
これまでの会計ルールは「企業会計原則」において包括的な取り決めが見られているものの具体的な会計処理に関する実務指針はなく、業種業態により解釈されることが実務上の慣習となっていました。
一般的に収益の「実現主義」による認識と呼んでおり、サブスクリプションサービスのような「役務の提供」による売上高の認識は「役務の給付によって実現したものに限る」とされていること、認識された売上高は「発生主義」に基づいて対応する期間の売上高として計上することになっていることから、これらに該当しない分が前受金となっています。
ですが近年の国際会計基準(IFRS)における収益認識基準が広く周知されつつあることなどにより、我が国でも収益の認識基準をより明確化する流れになり、2021年4月から原則として「収益認識に関する会計基準」に従うことになります。主な適用対象企業は上場企業や国際会計基準を採用している企業、一定の大企業です。
なお、国税庁では「収益認識に関する会計基準」は「企業会計原則」に優先して適用される会計基準としての位置付けになる旨を公表していますが、同時に中小企業は従来通り「企業会計原則」などによる会計処理を認めるとしています。
この「収益認識に関する会計基準」が「企業会計原則」と大きく異なる点として、5つのステップを検討した結果、収益として認識すべきかどうかを判断することです。
たとえば以下のような認識の差異が生じることになります。
収益の計上単位
ハードウェアの販売と保守契約を同時に締結した場合にいくらをハードウェア分でいくらを保守契約分とすべきか
計上時期および計上額
ハードウェアが顧客に引き渡され、顧客が完全に利用可能となった時期(検収された時)、サブスクリプションサービス提供企業ではステップ2の「契約における履行義務を識別する」が重要になります。
通常のサブスクリプションサービスの提供であれば収益の認識に大きな相違はないはずですが、複合するサービスの提供がある場合に留意が必要です。
たとえばサブスクリプションサービス契約とソフトウェアのインストールサービス契約がある場合、それぞれのサービスに対応する収益認識について以下の判断を要することになります。
・インストールサービスが同業他社でも見られるような、一般的なサービス提供であるかどうか
この場合はインストールサービスが完了し顧客が使用可能になった時点をもって収益に計上します(サブスクリプションサービスとは別個のサービスとして認識)。
・インストールサービスが顧客の別のソフトウェアやシステムと結合させる重要なサービスの場合や、インストールにより提供するソフトウェアが著しく機能修正されることで顧客仕様になるかどうか
この場合はインストールサービスによる収益は、サブスクリプションの契約期間などにより収益を認識しなければならない可能性があります。
参考資料
- Profession Journal 「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第3回】
- EY 企業会計ナビ 第3回:契約における履行義務を識別する
- 国税庁 「収益認識に関する会計基準」への対応について
- Salesforce 収益認識ポリシー
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