IFRSの契約負債、返金負債or返品負債の違いは?IFRS特有のBS科目をチェック!

IFRSの契約負債、返金負債or返品負債の違いは?日本基準との比較からIFRS特有のBS科目をチェック!

こんにちは。「クロジカ請求管理」コンサルティングチームの花田です。

2021年からIFRS第15号に対応した新収益認識基準が導入されました。損益計算書上の収益の変更に焦点が当てられがちですが、実はBSにも影響があります。この記事ではIFRS第15号と新収益認識基準が貸借対照表に与える影響についてわかりやすく解説します。

またサブスクリプションビジネスで特にポイントとなる「契約負債」「返金負債」「返品負債」について詳しく解説していきます。

IFRSとは

IFRSとは、「International Financial Reporting Standards」の頭文字で、「国際会計基準」または「国際財務報告基準」と訳されます。国際会計基準審議会(IASB)が設定した会計基準のことであり、財務諸表を作成するときのルールを定めたものです。

IFRSは、経済活動のグローバル化を受けて世界共通の会計基準を目指して策定されました。EUの上場企業はIFRSの適用が義務付けられるなど、世界で広く用いられている会計基準です。

日本基準の企業には関係ない?

日本ではこれまで、日本独自の会計基準を発展させてきました。一般的に「日本基準」と呼ばれる会計基準です。

しかし、日本もグローバル化の流れに乗り、国際ルールに則った会計基準を取り入れる必要性が出てきました。そのため、徐々に日本基準をIFRSに近づけるような変更=「コンバージェンス」が行われてきました。

そのため、日本基準を採用している企業でも、IFRSと同じような会計基準に則った処理を行う必要があります。また、政府が導入を促進していることもあり、日本基準をIFRSに合わせていく「コンバージェンス」は今後さらに進められる傾向があります。

現在、日本基準を採用している企業にとっても、IFRSについて理解しておくことが重要なのです。

BS=財政状態計算書?

ここで、IFRS関連の話題でよく耳にする「財政状態計算書」という言葉についてチェックしておきましょう。IFRSでは貸借対照表のことを「財政状態計算書」と呼びます。日本基準の貸借対照表と大きく異なる点として、「流動」「固定」という区分がIFRSでは「流動」「非流動」となる点が挙げられます。

IFRSでは資産と負債項目の配列方法についての規定は特になく、流動資産、負債から順に表示する流動性配列法と、固定資産/負債から表示する固定性配列法のいずれも認められています。

どちらで表示するかは各企業の判断に委ねられていますが、財務諸表利用者がその企業の財政状態を把握しやすい方法を選択することになります。

また、IFRSの根底となる考え方に「資産負債アプローチ」があります。資産負債アプローチは資産と負債の評価と、その差額である純資産を重要視する考え方です。

日本会計基準は「収益費用アプローチ」という考え方から、PL重視の考え方が強くなっています。BSの変動よりも、損益計算書上で計算された利益が重要視される傾向があります。

IFRSでは財政状態計算書において期首から期末までに増加したものが利益(包括利益)と見なされます。PLよりもBSの増減が重視される傾向があるのです。

IFRS第15号と新収益認識基準

新収益認識基準はIFRS第15号の考え方を取り入れた会計基準のため、IFRS第15号を理解すると、新収益認識基準をより深く理解することができます。

IFRS第15号では、契約当事者のいずれかが義務を履行した場合に、契約資産または契約負債を財政状態計算書に表示することが求められています。

なお、企業の財又はサービスを提供する義務の履行と対価の受領との関係を契約資産・契約負債のいずれとして表示すべきかの判断は、履行義務単位ではなく、契約単位で行われます。そのため、一つの契約に対して、契約資産と契約負債の両方が認識されることはありません。純額で契約資産又は契約負債のいずれかが認識されることとなります。

例えば、100万円の費用と負債を計上してサービスを構築し、顧客に提供し、150万円の代金を受け取った場合は、50万円の契約資産が認識されることになります。

また、IFRS第15号には「返金負債」という概念があります。返金負債は、顧客から対価を受け取っているものの、その対価の一部又は全部を顧客に返金すると見込んでいる場合に認識されるものです。返品権付きの販売を行う場合や将来支払うことが見込まれるリベート等から生じるものです。

返品権付きの販売を行う場合は、返金負債と併せて、返品が見込まれる分の「返品資産」を計上することになります。ここからは、IFRSの財政状態計算書で特徴的な4つの勘定科目について一つずつ詳しく解説していきます。

  1. 顧客との契約から生じた債権
  2. 契約資産
  3. 契約負債
  4. 返金負債

顧客との契約から生じた債権

収益認識会計基準における「顧客との契約から生じた債権」とは、「企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のものをいう」とされています。

この「無条件のもの」という言葉には、サービスの提供や商品の引き渡しが完了していて、他にはやるべきことがなく、顧客からの入金を待つのみという状態であることを意味します。

「顧客との契約から生じた債権」の代表的なものは「売掛金」です。それでは売掛金以外の債権はどのように計上されるのでしょうか。それが次の「契約資産」です。

契約資産

「契約資産」とは、「企業が顧客に移転した財またはサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、顧客との契約から生じた債権を除く)」と定義されています(収益認識会計基準10項)。

①で述べた「顧客との契約から生じた債権」との違いはなんでしょうか。それは、対価に対する権利が、契約資産の場合は支払期日の到来以外の条件が求められるのに対して、債権の場合は対価を受け取る期限が到来する前に必要となるのが時の経過のみであるという点です。

簡単に言い換えるならば契約内容が完了しているか否か、であると捉えることができるでしょう。

〇顧客との契約から生じた債権:売掛金のように支払期日の到来のみが満たされればよいものは債権
〇契約資産:支払期日の到来以外の条件が求められる

顧客との契約から生じた債権と契約資産の違い

次の例で実際にどんな場合にどちらの科目を用いるのかを見ていきましょう。

  1. 単価10円商品Aを100個販売し、すべての納品が完了した段階で契約金額の支払義務が生じる、という契約を結びました。
  2. 4/1に30個、と6/1に70個納入することになりました。

4/1:商品30個を納入しましたので、契約資産 300円 / 売上高 300円という仕訳を計上します。

この時点で計上されるのは「債権」ではなく「契約資産」であることがポイントです。

その後、6/1に残りの70個を出荷し、納品しました。契約した100個の納品が完了したことで、4/1に計上した「契約資産」の30,000円を取崩し、全額を債権とします。

顧客との契約から生じた債権1,000 円売上高700 円
契約資産300 円

「顧客との契約から生じた債権」は契約内容の納品はすでに終わっているので、あとは単に待っていれば入金がある、という状態です。この状態の時だけ、「顧客との契約から生じた債権」を計上することができるのです。

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契約負債とは

「契約負債」とは、企業が顧客に財又はサービスを移転する義務のうち、企業が顧客から対価を受け取っている(又は対価の金額の期限が到来している)ものです。

ここでは

  • 商品を顧客に移転する義務がある
  • 顧客から対価を受け取っている

という二点がポイントになります。

サブスクリプションビジネスで頻出する前受金は、IFRSでは契約負債になります。

前受金は

  • 商品またはサービスを提供する義務があり
  • 代金を受け取っている

ことから、契約負債となります。

下記の二つのパターンで考えてみましょう。

パターン① 

  • 顧客と4/1に商品Aを1,000円、6/1に製品Bを500円納入するというそれぞれに別個の契約を交わした
  • 各商品の引き渡し時点で顧客の支払義務が確定する
  • 顧客からは4/1に一括で1,500円の支払いを受けた

<4/1:商品Aの納入が完了>

預金1,500 円売上1,000 円
契約負債500 円

*商品Aについての契約はこれで完了しましたので、売上を計上してこの取引に関する仕訳は完結です。

一方、商品Bの販売契約についての代金は、まだ商品を引き渡していないので「契約負債」として計上します。

<6/1:商品Bの納入が完了>

契約負債500 円売上500 円

*商品Bの分の代金は4/1にすでに受け取っており、契約負債として計上していますので、これを取り崩し、売上を計上します。

パターン② 

  • 4/1に製品Aを1000円分、6/1に製品Bを500円納品する。
  • 両方が納品されないと顧客の支払義務が確定されない契約になっている。
  • 顧客の支払期日は6月30日であり、期日通りに入金された。

<4/1:商品Aの納入が完了>

契約資産1,000 円売上(商品A)1,000 円

商品Aは納入が完了しましたので、売上を計上することができますが、未履行の契約が残っていることから、借方は売掛金ではなく「契約資産」を計上します。

<6/1:商品Bの納入が完了>

売掛金1,500 円契約資産1,000 円
売上500 円
6月1日

製品Bが納入され契約の内容がすべて履行されました。この時点で4/1に計上した契約資産を売掛金に振り替えます。また6/1に納入した商品Bについても、契約が完了したので売掛金に計上します。

<6/30顧客から代金の支払いを受ける>

預金2,000 円売掛金2,000 円
6月30日

このように、契約上の支払義務の発生時期と、履行義務の充足時期のズレにより、契約資産、契約負債、売掛金、売上と管理すべき科目が変わることに留意が必要です。

「返金負債」と「返品資産」

返品権付きの販売は、企業が顧客に資産(商品・製品)を売り渡すとともに、顧客の一方的な意思表示により返品を行い、返金を受けられる場合をいいます。

返品権付きの商品を販売した場合は、次の3つのプロセスが必要になります。(適用指針第85項)

①企業が権利を得ると見込む対価の額(返品をされると見込まれる商品または製品の対価を除く)で収益を認識する。

  1. 返品されると見込まれる商品または製品については収益を認識せず、当該商品または製品について受け取る対価の額で返金負債を認識する
  2. 返金負債の決済時に顧客から商品または製品を回収する権利について返品資産を認識する

例えば、100円のものを10個販売し、3個の返品が見込まれるとしましょう。この場合は下記のような仕訳を計上します。

売掛金10,000 円売上9,700 円
返金負債300 円
(100 円×3個)

返品が見込まれる分だけ売上を減額し、返金負債を計上します。

また、返金負債を認識した際には、回収費用を控除した金額で返品資産を認識し、これに対応する売上原価を修正します。

売上原価が1個当たり70円で、売却個数100個のうち、返品が見込まれる数量が3個であった場合、以下のような仕訳を行います。

返品資産210 円
(売上原価70円×3個)
棚卸資産(製品)7,000 円
売上原価 6,790 円

出典:企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
出典:EY新日本有限責任監査法人 情報センサー2018年7月号 IFRS実務講座 『IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の表示・開示』 

まとめ

IFRSへのコンバージェンスや新収益認識基準の導入により、債権や債務の認識方法が大きく変化しています。損益計算書上の対応だけではなく、貸借対照表(財政状態計算書)についても検討と対応が必要になっているのです。

特にサブスクリプションビジネスでは、単にPLの収益だけではなく、前受金を契約負債として認識するなど、BS上もIFRSの影響を受ける場合が多いかもしれません。

自社の採用している会計基準や取引の状況などに応じ、最新の会計基準に対応できているか、ぜひこの機会に確認してみてください。実際に会計処理の変更が必要な場合は、監査法人や税理士とよく相談し、自社の状況に応じた対応を検討しましょう。

なお、SaaSビジネスやサブスクリプションビジネスを行う企業が柔軟に会計基準や関係法令に対応していくためには、サブスクビジネスに強いシステムを導入するという方法があります。IFRSで重要となる契約書の管理や前受金の集計、売上計上まで自動化できるシステムやクラウドサービスの導入を検討してみましょう。

このようなサービスを選ぶ際には、ビジネス環境の変化や会計基準の変更、税制の改正などに柔軟に対応できるかどうか、という視点が重要になります。また、最新の会計基準に沿った処理を行うだけでなく、自動化によるミスや手戻りを防ぐなど、業務効率・生産性向上につながるシステムやサービスを選ぶことがおすすめです。

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