こんにちは。「クロジカ請求管理」コンサルティングチームの花田です。
新収益認識基準の導入により、返品調整引当金が廃止されるのをご存知でしょうか。2018年に「収益認識に関する会計基準」により収益認識基準がルール化されました。これを踏まえて、同年の税制改正において、返品調整引当金が経過措置を設けた上で廃止されることになりました。
この記事では、引当金の意義や概要をご紹介するとともに、返品調整引当金とはどのような引当金なのかを解説します。また、会計基準の変更が税務に与える影響についてわかりやすく解説します。
目次
引当金の4要件
経理の実務において、「賞与引当金」や「退職給付引当金」「貸倒引当金」など、さまざまな引当金を目にすることがあると思います。
「引当金」という勘定を簡単に説明すると、「将来に発生する可能性のある特定の費用または損失に備えてあらかじめ準備しておく見積金額」といえるでしょう。
引当金は下記の要件を満たす場合に計上できます。
- 将来の特定の費用又は損失であること
- その発生が当期以前の事象に起因していること
- その発生の可能性が高いこと
- その金額を合理的に見積もることができること
出典:企業会計原則注解(昭和57年4月20日 企業会計審議会) 注18
引当金の意義
当期に発生した費用は、当期の費用として計上する必要があります。賞与などは、支払が来期以降であっても、その支給の原因となる事柄は当期中に発生しています。
例えば、2021年9月~2022年3月までの勤務を対象に、2022年6月に賞与を支給する企業があります。この企業が3月決算であった場合、支払いは2022年の6月ですが、支給対象となる事由の前期(2021年4月~2022年3月の会計期間)に賞与が発生しています。
このため、2022年3月度においては、賞与の未払分の金額を賞与引当金として計上する必要があります。
このように、費用の負担を各期に配分し、適正な月次損益·年間損益を把握するために引当金が用いられます。これは費用収益対応の原則と発生主義に基づく考え方で、将来の支払い義務を正確に認識するためにも役立ちます。
返品調整引当金の意義とは
それでは、返品調整引当金とはどのような引当金なのでしょうか。
商品を販売する際、買い戻し特約付きで売却し、販売店は売れ残った商品を仕入先に返品できるケースがあります。この取引形態は出版社や出版取次業、医薬品、農薬、化粧品、アパレル業界で行われています。
例えば、本の販売において、書店は出版社や出版取次から本を仕入れて販売します。しかし、売れ残った場合は出版社·出版取次に返品するという仕組みになっています。この場合、あらかじめ返品される額を見積もって計上しておくのが「返品調整引当金」です。
このような取り決めや商習慣がある場合には、売上·収益は返品により減少する可能性があると考えられます。返品を考慮せずに売上を計上してしまうと、結果的に過大な収益を計上することになるのです。
そのため、買戻しによる損失を予め計上することが、費用収益対応の原則の観点から合理的であると考えられ、返品調整引当金の計上が行われてきました。
返品調整引当金の実務
返品調整引当金の計上金額は、当期に販売した製品·商品のうち、翌期に返品されると予想される部分の販売益に相当する金額です。過去の実績やその他の分析により、返品率を算出して見積もります。
返品調整引当金を100万円設定する場合、下記のような仕訳で計上されます。
返品調整引当金繰入額:100万円 返品調整引当金:100万円
返品調整引当金は、財務諸表では流動負債の部に表示されます。返品調整引当金繰入額は、当期に計上された販売益が翌期の返品によりマイナスされることに対する引当金のため、損益計算書の売上総利益の下に表示します。
改正前の法人税法における返品調整引当金の取り扱い
ここからは、返品調整引当金の税務上の取り扱いについて解説します。
従来は、返品調整引当金繰入額は、繰入限度額まで損金算入(税金計算状の費用として扱う)が可能でした。つまり、限度額はあるものの、会計上の費用が税務上も費用として認められていたのです。
しかし、収益認識会計基準の導入によって、返品調整引当金は廃止されることになりました。
ここで、まず収益認識会計基準の概要をおさらいしましょう。
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収益認識会計基準
2018年3月30日に企業会計基準委員会により、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」が公表されました。原則適用は2021年4月1日以後開始する年度からとなっています。
収益認識会計基準においては、返品調整引当金は販売対価(収益)を変動される要因として考慮されます。つまり返品が見込まれる場合には、引当金を計上するのではなく、販売時の売上から引いておくのです。
従来の法人税法における「収益」の定義
従来は法人税に係る収益(益金)の認識について、「別段の定めがあるものを除き、資産の汎愛、有償または無償による資産の譲渡、その他の取引で資本など取引以外ものにかかわる収益の額」とする旨が規定されていました。
また4項において、この収益額の計算については「一般的に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って行うべきことが規定されていいました。
収益認識に関しては、従来は会計上と税務上で大きな違いはなかったのです。
収益に関する法人税法の改正内容
収益認識会計基準などの公表を受け、平成30年度税制改正において、法人税における収益の認識に関する規定が整備されました。
会計において収益の認識基準が大幅に改正されたので、法人税法も改正されたのです。
会計上の返品調整引当金が廃止されることに伴い、税務上の取り扱いも廃止されることとなりました。
ただし、返品調整引当金の廃止については10年間の経過措置(2030年3月31日まで)が設けられています。旧法人税法による損金算入限度額に対して1年ごとに10分の1、つまり1割ずつ繰入できる限度額が減少していき、2030年4月1日以降の事業年度からは損金算入ができなくなります。
会計基準の変更と税務への影響
改正された法人税法では、原則として収益認識会計基準に沿った取り扱いが行われることになります。他方、今回のトピックである返品調整引当金のように、経過措置などによって、一時的に会計とは異なる税務独自の取り扱いが定められることもあります。
なお、収益認識基準の導入はIFRSの導入によるものです。日本では徐々にIFRSの基準を取り入れ、国際基準に歩み寄ろうとする方針があります。日本基準会計を採用している会社や、これまで返品調整引当金を用いてこなかった企業でも、新たな会計基準への対応が今後必要になる可能性があります。
会計基準の変化や税制改正が行われた場合は、まずは、監査法人や顧問税理士と打ち合わせながら、現在の業務フローや処理のどの部分を変更しなければならないかを確認してみましょう。新たな処理が必要な場合は、既存のシステムや会計ソフトが対応できるかの確認も重要です。必要に応じて新システムの導入や、クラウドサービスの活用も検討することができます。
会計基準や法制度は年々変化していくものです。変化の本質を見極め、適切な対応を検討することは、課題抽出や業務改善にも役に立ちます。また、今後の変化にもより柔軟に対応できるようになります。
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