収益認識基準導入に伴うSaaSビジネスの会計実務の変化とは?

収益認識基準導入に伴うSaaSビジネスの会計実務の変化とは?

こんにちは。「クロジカ請求管理」コンサルティングチームの花田です。

2021年春に会計基準の大きな変化がありました。企業会計基準委員会が2018年3月に公表した「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)が大企業を中心に強制適用となったのです。

この結果、収益認識のルールが統一化されました。従来、ソフトウェア業界ではソフトウェア取引実務対応報告や工事契約基準に沿って会計処理が行われてきました。

しかし、収益認識基準が導入されることで会計実務は変化を余儀なくされます。

本稿では、SaaSビジネスにおけるソフトウェアのライセンス供与の会計処理が、収益認識基準の導入によってどのように変化するのか。具体的には「アクセス権」と「使用権」の区別と、収益認識基準に照らした場合に両者の会計処理はどのように行うべきかを解説します。

収益認識基準の基礎知識

収益認識基準導入の背景

これまで会計実務上、収益認識は実現主義に基づいて行われていました。実現主義は簡潔な基準であり、わかりやすいものでしたが、反面で統一的な会計処理ができないという難点もありました。

なぜ、統一的な会計処理ができなかったのかというと、実現主義によると収益認識には次の2つの要件が必要でした。①クライアントに商品・サービスを引き渡すこと、②企業が現金または現金等価物を受領することです。

実現主義による売上計上を行う場合、企業ごとに売上計上のタイミングにズレが生じていました。具体的には各企業がバラバラに出荷基準・納品基準・検収基準という異なる基準を採用していたのです。どの基準をとるのかは業種・業界ごとの慣行があり、統一的な処理がなされていないのが現実だったのです。

実現主義をとると、商品の引き渡しが完了し、売掛金が発生するタイミングで売上を計上すればよく、一見簡潔に処理できるように思えます。

しかし、上述したような会計処理のバラつきが生じてしまっていました。これは国際的な会計基準に照らしても大きな問題でした。

このため収益認識についての統一的なルール制定の必要性が、長年にわたって叫ばれてきたのです。

収益認識のための5つのステップとは?

収益認識基準によると「企業は財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に、又は履行義務を充足するにつれて、収益を認識する」とされます。

わかりやすくいうと、収益認識基準とは「売上をどのタイミングでどのように計上するか」について定めた基準です。注意すべき点は、収益認識のために5つのステップを踏まなければならないこととです。従来に比べて、取引内容を実質的に判断したうえで会計処理を行う必要が出てきました

①顧客との契約の識別

当事者間の契約の存在を判断します。民法上、口約束でも契約は成立し、有効な契約とされます。もっとも、会計実務上は書面の存在をもって契約成立を認定するのが一般的です。

②契約における履行義務の識別

契約の内容を実質的に判断して顧客に対して具体的に何個の約束があるのかを判断します。1つの契約だとしても複数の履行内容を含む場合は各々について履行義務を認定するのです。

例えば、SaaSビジネスの場合、1つの契約中にソフトウェアのインストール、契約期間中のソフトウェアの利用、カスタマーサポートが含まれていた場合、履行義務が3つ存在すると認定します。

③取引価格の算定

契約全体で取引の金額がいくらになるのか確認します。取引価格とは、財やサービスの顧客への移転に伴い、企業が権利を得ると見込まれる対価の金額です。

④履行義務への取引価格の配分

上記で算定した取引価格をひとつひとつの履行義務に配分します。上記の例で考えると、SaaSサービス全体の契約が100万円であった場合、インストールに10万円、ソフトウェアの利用に70万円、カスタマーサポートに20万円といった形で、履行義務の内容に応じて金額が配分されます。

⑤履行義務の充足による収益の認識

履行義務の識別と取引価格の配分を前提として、現実の履行が充足された場合に収益を認識します。履行状況に応じて履行義務の充足が判定されるので経理担当者は実際のサービス提供状況も把握して、会計処理に反映させなければなりません。

SaaSビジネスにおけるソフトウェアのライセンス供与

SaaSビジネスにおけるソフトウェアのライセンス供与

収益認識基準導入に伴って問題となるのがソフトウェアのライセンス供与の収益認識です。ソフトウェアの場合、インストールサービスやテクニカル・サポートの他、ソフトウェアのアップデートが含まれます。

収益認識基準によると、ライセンスを供与する契約が、顧客との契約における他の財またはサービスを移転する約束と別個のものではない場合、ライセンスを供与する契約と当該他の財・サービスを移転する約束を一括して単一の履行義務として処理します。

そして、ライセンスは「アクセス権」と「使用権」に分類されます。SaaSによるソフトウェア・サービスの場合「アクセス権」と「使用権」の識別がやや複雑であり、会計上も処理も注意を要します。

理由は、SaaSによるソフトウェアの契約内容を具体的に判断して両者の区別をしなければならないからです。

SaaSのユーザーはサーバー上にあるソフトウェアをインターネット経由で利用しますが、①デザインや機能などUI/UX面でアップデートがなされるものは「アクセス権」とされます。これに対して②そのようなアップデートがないものは「使用権」とされます。

「アクセス権」とされる場合の収益認識

「アクセス権」は、履行義務が一定期間にわたって充足されるものとして、売上が分割計上されます。この場合、ユーザーのソフトウェア利用は、ライセンス期間の間に企業の知的財産へアクセスする権利とされます。

企業がソフトウェアへの関与を継続し、例えばソフトウェアのアップデートがライセンス期間全体を通じて随時行われるとすれば、ライセンス供与時点においてユーザーには知的財産へのアクセス権があるだけです。収益の認識もなされません。

「使用権」とされる場合の収益認識

「使用権」は、履行義務が一時点で充足されるものとして、売上が一括計上されます。この場合、ユーザーのソフトウェア利用は、ライセンスが供与される時点で存在するベンダーの知的財産を使用する権利とされます。

企業によるソフトウェアへの関与がなく、ライセンス期間中に機能面での変化がなければ、ユーザーにはソフトウェアの使用権があるとみなされます。ライセンス供与時点で収益の認識がなされます。

まとめ

従来、我が国では収益認識のルールが曖昧にされていました。しかし、国際的な会計基準に近づくためにIFRS第15号をベースにした収益認識基準が策定されたのです。新たなルールは5つのプロセスに分けられており、取引実態に合わせて具体的に売上の計上を行うことができます。

もっとも、基準自体が変わるために収益認識のタイミングや実際の計上金額も以前とは変わってくる可能性があります。現在は変化の過渡期にあることから、売上計上に関しては特に慎重な対応が求められます。場合によっては収益認識基準に合わせて自社のビジネスモデルを見直す必要も出てくるでしょう。

特に、SaaSビジネスはサブスクリプションの形を取る場合も多く、本稿で取り上げたようなソフトウェアのライセンス供与を、アクセス権と使用権のどちらで捉えるかという問題も生じます。

ソフトウェアのライセンス契約に基づく事業は近年非常に増えています。サブスクリプションが現代の価値観にマッチしている点もSaaSビジネスの隆盛を支える背景となっています。

もっとも、収益認識基準に照らすとソフトウェアのライセンス契約は難しい判断が求められます。会計担当者の方々におかれては自社の会計処理が収益認識基準下でどのように変わってくるのか意識したいものです。

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