新しい収益認識基準でSaaS事業者が注意すべきポイントとは?

新しい収益認識基準でSaaS事業者が注意すべきポイントとは?

こんにちは。「クロジカ請求管理」コンサルティングチームの花田です。

新しい収益認識基準では、次の5つのステップで収益を認識します。

「ステップ1 契約の認識」で顧客との契約を識別し、「ステップ2 履行義務の識別」でステップ1において識別した顧客との契約を履行義務ごとに識別し、「ステップ3 取引価格の算定」でステップ1の契約全体の取引価格を算定し、「ステップ4 取引価格の配分」で取引価格を履行義務ごとに配分して、それらを「ステップ5 収益の認識」で履行義務ごとに収益認識します。

収益認識基準は従来の実現主義の問題であった「履行義務の完了」「対価の受領」の実現の時点で売上を計上するという実現の要件の曖昧さを是正するものというイメージがあるため、収益認識の5つのステップのうち売上計上タイミングに大きく関係する「ステップ1 契約の識別」と「ステップ2 履行義務の識別」に着目している経理担当者様や経営者様も多いかと思います。次に注目されるのが売上計上金額である取引価格を配分する「ステップ4 取引価格の配分」でしょうか。

「取引価格の算定」の「取引価格」とは?

では、「ステップ3 取引価格の算定」の取引価格とは何でしょうか。あたらしい収益認識基準は契約ごとに収益を認識するため契約書に記載された金額ではないかと思われる方も多いかもしれません。

新しい収益認識基準における取引価格とは「財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する金額を除く)」(会計基準第8項)であり「取引価格の算定にあたっては、契約条件や取引慣行等を考慮する」(基準第47項)こととされています。つまり、将来の収益の見込み金額を算定する必要があります。その算定にあたって、会計基準第48項では以下の全てを考慮するものとしています。

  1. 変動対価
  2. 契約における重要な金融要素
  3. 現金以外の対価
  4. 顧客に支払われる対価

つまり、これらを全て考慮すると取引価格は必ずしも契約書通りの金額とはならない可能性があります。特に契約期間によって値引きなどの存在や長期間の報酬の一括払い等が予測されるSaaS事業の経理担当者様や経営担当者様にとってはポイントとなる可能性があります。

今回は「ステップ3 取引価格の算定」について説明します。

取引価格の算定について

変動価格

変動価格とは「顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分」をいいます(会計基準50項)。具体的には会計基準適用指針第23項に値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等が挙げられています。

つまり、契約書に金額が記載されていても企業による取引の慣行や、明らかに顧客が価格の引き下げを期待する場合等については、企業が実際に将来得られるだろう変動後の金額を見積もって収益計上する必要があります。見積もりは、最頻値法(発生し得ると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額による方法)と期待値法(発生し得ると考えられる対価の額を確立で加重平均した金額による方法)のいずれかより適切に見積ることができる方法を選択し、契約全体を通じて単一の方法を一貫して適用します(決算時に見直すこともできる)。

変動価格における見積もりとは?

なお、変動対価の全額が常に取引価格に含められるわけではなく収益の過大計上を防ぐ観点から取引価格に含めることができる変動対価には一定の制限がかけられていて、変動対価の見積りが制限されるケースについては総合的な判断が必要のため、会計基準適用指針第25項において例示がされています。

  1. 市場の変動性又は第三者の判断若しくは行動等、対価の額が企業の影響力の及ばない要因の影響を非常に受けやすいこと
  2. 対価の額に関する不確実性が長期間にわたり解消しないと見込まれること
  3. 類似した種類の契約についての企業の経験が限定的であるか、又は当該経験から予測することが困難であること
  4. 類似の状況における同様の契約において、幅広く価格を引き下げる慣行又は支払条件を変更する慣行があること
  5. 発生し得ると考えられる対価の額が多く存在し、かつ、その考えられる金額の幅が広いこと

契約における重要な金融要素

契約の当事者が明示的又は黙示的に合意した支払時期により、財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には、顧客との契約は重要な金融要素を含むものとする。

会計基準第56項

つまり、契約による取引開始日にサービスの提供時点と顧客の支払いの時点が1年以上離れている場合に、金利に相当する部分を金利調整行うのであればそれは取引価格に含めることになります。

現金以外の対価

契約における対価が現金以外の場合に取引価格を算定するにあたっては、当該対価を時価により算定します(会計基準第59項)。

現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合には、当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として当該対価を算定します(会計基準第60項)。

つまり、現金以外の方法でも契約による対価を受け取る場合には、取引価格に含めます。

顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の(1)又は(2)のいずれか遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて)、収益を減額する。
(1) 関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時
(2) 企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(当該支払が将来の事象を条件とする場合も含む。また、支払の約束は、取引慣行に基づくものも含む。)(会計基準第63項)

例えば、契約期間による値引きがありそれが十分に見積もられる場合には、収益計上の時点で減額する必要があります。

「ステップ3 取引価格の算定」にも注意を!

2021年4月からスタートするIFRSに準拠した新収益認識基準によって、経理担当者様や経営者様もしっかりお勉強されているかと思います。収益認識のタイミングや契約ごとに配分される収益金額だけでなく、その大元となる取引金額についても今一度確認をお願いいたします。

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