サブスクリプションビジネスの収益認識で重要な変動対価とは?詳しく解説!

サブスクリプションビジネスの収益認識で重要な変動対価とは?詳しく解説!

こんにちは。「クロジカ請求管理」コンサルティングチームの花田です。

2021年春に新収益認識基準が大企業を中心に強制適用となりました。この記事では新収益認識基準のポイントを押さえるとともに、サブスクビジネスの収益認識で重要となる「変動対価」について詳しく解説します。

収益認識の背景

収益認識についての理解を深めるため、「新収益認識基準」導入の背景を押さえておきましょう。

売上計上の新ルール「新収益認識基準」導入の目的は、今まであいまいだった売上計上(=収益認識)のルールを明確にし、取引の実態に合わせた売上計上を行うことにあります。

「売上」は損益計算書の一番上に書かれ、企業経営にとって最も重要な項目ともいえます。しかし、企業会計基準でも法人税法でも、これまで売上計上(=収益認識)に関するルールについては明文化されたものがありませんでした。

そのため、多くの企業で、売上計上の時期や金額に関するルールが一致していませんでした。しかし、経済のグローバル化が進む中、会計基準がバラバラなままでは、投資家も経営者自身も、他企業の決算書や業績予想を比較できず正しい判断を下せないなどの弊害が大きくなってきました。

そこで、世界共通の会計基準としてIFRSが作られ、世界的にも広く使われ始めています。

日本もその流れに乗り、日本基準をIFRSに近づけるような変更(コンバージェンス)が行われてきました。これにより、日本の企業会計基準でも新しく「収益認識に関する会計基準」(新収益認識基準)が開発され、2021年4月1日以後に開始される事業年度から大企業を中心に強制適用されるようになりました。

新収益認識基準は、実務への影響を配慮していくつかの簡便的な処理が認められていますが、基本的には国際会計基準(IFRS)とほぼ同じです。こうして、日本でもIFRSとほぼ同等の収益認識基準が導入されることとなったのです。

新収益認識基準のポイント

では、新収益認識基準とは具体的にどのようなものなのでしょうか。新収益認識基準では、契約の形式や金額よりも、物品やサービスの顧客への提供実態を重視します。

新会計基準では、収益(売上)の認識を、次の5つのステップを経て認識することとされています。

【ステップ1】顧客との契約を識別

収益認識の対象となる契約を識別します。例えば、A社が顧客であるB社と、「製品の販売および2年間の保守サービスを提供する」契約を締結した場合、この契約は収益識別の対象となります。

【ステップ2】契約における履行義務を識別

製品の販売と保守サービスの提供が「履行義務」に該当するものとして識別し、それぞれの取引を収益の認識単位とします。

つまり、①製品の販売と、②保守契約の役務提供分を分離して、それぞれの収益を認識するのです。

【ステップ3】取引価格の算定

①製品の販売と②保守サービスの提供に対する取引価格の総額を12,000千円と算定します。これが収益総額になります。

【ステップ4】契約における履行義務毎に取引価格を配分

取引価格の総額12,000千円を、①製品の取引価格と、②保守契約の取引価格とに配分します。この取引価格の配分は取引開始日の独立販売価格の比率に基づき配分します。

【ステップ5】履行義務の性質に基づいて収益を認識

識別した各履行義務における収益の認識時点を決定します。企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することによって、履行義務を充足した時に収益を認識します。

出典:企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

取引価格の算定

サブスクビジネスの収益認識において重要な論点となるステップのひとつに、ステップ3の「取引価格の算定」があります。

新収益認識基準における「取引価格」とは、“財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額”と定められています。

取引価格の算定にあたっては、契約条件や取引慣行等を考慮しつつ、

(1) 変動対価
(2) 契約における重要な金融要素
(3) 現金以外の対価
(4) 顧客に支払われる対価に関する全ての影響

を考慮するものとされています。このため、取引価格は必ずしも契約書に記載された取引金額の総額と一致するとは限りません。

また、取引価格は、「第三者のために回収する金額を除く」とされていることから、消費税などは取引価格から除く点に留意が必要です。

出典:企業会計基準適用指針第 30 号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

変動対価とは

変動対価とは?

ここからは、取引価格の算定要素の一つである変動対価について詳しく見ていきましょう。

変動対価とは、顧客と約束した対価のうち、変動する可能性のある部分のことです。具体例としては、値引き、リベート、返金や返品権付きの販売などが挙げられます。また、インセンティブ、業績に基づく割増金などにより、対価が増加する場合も該当します。

従来の日本基準では、変動対価についての一般的な定めはありませんでした。例えば、売上リベートについては、支払の可能性が高いと判断された時点で収益を減額する方法や、販売費として費用計上する方法が採られてきました。

新収益認識基準では、取引の対価に変動性のある金額が含まれる場合、その変動部分の額を見積って、収益の額の算定に反映することが求められます。また、変動部分については、認識した収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、収益を認識することとされています。

変動対価は、契約条件で定められる場合のほか、企業の取引慣行や公表した方針等に基づいて価格の引下げを顧客が期待する場合や、契約締結時に企業に価格引下げの意図がある場合にも示されることがあります。

変動対価の算定方法

契約において、顧客と約束した対価に「変動対価」が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積り、収益を認識します。つまり、取引価格に「変動対価」を含む場合には、「変動対価」の額を見積ることとなります。

変動対価の見積りは、企業が権利を得ることとなる対価の額を、より適切に予測できる方法を用いて見積ります。

具体的には、変動対価を見積るにあたって、①最頻値法②期待値法のいずれかを用います。

①最頻法

発生しうると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額(最頻値)により見積もる。

②期待法

発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額(期待値)により見積もる。

サブスクリプションビジネスでは、利用料が定額もしくは一定の割引となる、といった契約において生じる結果が2つしかない場合が多いかもしれません。その場合は最頻値(もっとも可能性の高い選択肢の金額)で見積もることが適切とされる可能性があります。

一方、同じような契約を多数有している場合には、期待値で見積もることが適切かもしれません。その場合、発生しうると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額の合計で見積もります。

例えば、200千円の売上を計上し、解約返金率が加重平均で2%と見積もられている場合、200千円×2%=4千円が変動対価となり、収益から控除されることになります。

実務的には、経済情勢・市場環境等の著しい変化がない場合には、過去の実績に基づいて算出することも認められると考えられています。

これらの方法は企業が任意で選択できるものではなく、より適切に見積ることができる方法を選択しなければなりません。また、契約全体を通じて単一の方法を首尾一貫して適用することが求められています。

この選択は、商習慣や事業環境、個別の商品やサービスの内容によっても異なるため、自社の監査法人などの専門家と相談の上で決定することが望ましいでしょう。

なお、見積もった取引価格は、各決算日において見直しを行わなければなりません。取引価格が変動し、以前に見積った取引価格の改定が必要と判断される場合には、収益の額を修正します。

変動対価=取引価格?

変動対価の算定方法についてみてきましたが、変動対価=取引価格となるのでしょうか。

実は変動対価の全額が常に取引価格に含められるわけではなく、収益の過大計上を防ぐ観点から、取引価格に含めることができる変動対価には一定の制限が設けられています。

変動対価の額の見積りのすべてを取引価格としてしまうと、変動対価の見積りが不確実であった場合に、対価を正しく表すことができなくなる場合があるからです。

「変動対価に関する不確実性が解消される時点で、収益認識累計額に大幅な減額が生じない可能性が非常に高い範囲でのみ、変動対価を取引価格に含めることができる」とされています。つまり、変動対価の額に関する不確実性が解消されるまで、収益の認識が制限されるのです。

このため変動対価については、①変動対価の額を見積るだけでなく、②その見積りの額の一部又は全部を取引価格に含めるかどうかを評価するという2段階のプロセスが必要になるのです。

変動対価の見積りが制限されるケースは、事業環境や商慣行、サービス個別の性質、その他契約条件などを考慮した総合的な判断が必要となります。

サブスクリプションビジネスにおける変動対価とは

この変動対価は、サブスクリプションビジネスの経理実務にどんな影響を及ぼすでしょうか。

サブスクリプションビジネスでは、完全に月額定額制のプランだけではなく、月額定額で一定量を超過すると請求金額が増加する従量課金制が設定されていることがあります。また、利用料に応じた割り戻し、割引プランなども存在します。

サービスの提供が完了した時点で最終的な収益を認識することが原則ではありますが、収益認識基準の考え方では、合理的な見積もりが可能である場合は、その変動対価をあらかじめ認識することが求められる可能性があります。

無料トライアルや割引キャンペーンの取り扱い

サブスクリプションビジネスでよくみられる、無料トライアル期間については、どのように収益を認識するべきでしょうか。

集客のため、一定の期間、無料でサービスを提供し、顧客がその間に将来のサービスの契約について判断することができる場合は、顧客は無料トライアル期間中にいつでも解約できるように定められていることが多いでしょう。

そのため無料トライアル期間中は、「契約」は存在しません。識別対象となる収益がそもそも存在しないと考えられる場合があります。顧客が無料トライアル期間終了後、有料のプランに加入するまで、契約は存在しないとみなされます。

このような場合の収益は、有料プランへの加入日以降に、契約の履行義務として会計処理する方法が一般的です。

また、一定期間、割安な金額で試すことができ、その後は正規の料金の支払いが必要になる割引キャンペーンなどを行う場合があります。

このような場合は、実態に即して変動対価を見積もり、収益額に反映させる必要が出てくる可能性があります。

まとめ

新収益認識基準が導入により、履行義務に基づいて契約内容を実質的に判断する必要が出てきました。

会計処理が複雑になっただけではなく、契約書の内容・取引の実態を正確に把握することも必要になります。また、割引や割り戻しについても、「変動対価」となるのか?またそのすべてが収益を減少させるのか?を判断しなければなりません。

サブスクリプションビジネスの経理実務においては、収益認識だけではなく、前受金管理やソフトウェア会計など、多くの論点が存在します。顧問先の監査法人や税理士とよく相談し、自社の実態を捉え、新しい会計基準に対応できる仕組みづくり・見直しを行っていきましょう。

新たな会計基準の導入は、今後も段階的に行われる可能性があります。また、会計基準以外にも、電子帳簿保存法やインボイス制度など、対応しなければならない制度が続々と出てくるのが実情です。経理実務担当者は、これらの変化に対応するため、既存のシステムや業務フローの見直しをする機会が増えると思われます。

SaaSビジネス・サブスクビジネス企業においてオペレーションを行っていくためには、こういったビジネスに強いシステムを導入するという方法があります。契約書の管理から前受金管理・売上計上、請求業務まで自動化できるシステムやクラウドサービスが提供されています。

このようなシステムやクラウドサービスを活用することで、最新の会計基準に沿った処理を行うだけでなく、誤計上や請求漏れを防ぎ、バックオフィスの生産性を高めることが可能になります。

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