
クラウド移行が当たり前となった今、社内の限られた人員だけで 24 時間 365 日の運用体制を維持して、絶えず変化するセキュリティ脅威やコスト最適化に対応するのは簡単ではありません。そこで注目を集めているのが マネージドサービスです。
AWS、Microsoft Azure、Google Cloudといった主要クラウドが提供するマネージドサービスの活用とマネージドサービスプロバイダー(MSP)と呼ばれる、サーバー環境の保守運用ベンダーの高度なサポートを組み合わせることで、監視・バックアップ・障害対応といった日々の作業を外部化しながら、可用性とセキュリティを同時に底上げできます。
本記事では、そんなマネージドサービスの基本概念からフルマネージドとの違い、導入メリットと潜在的なリスク、主要クラウドごとの代表的なマネージドサービスの例、さらに自社に最適なマネージドサービスプロバイダーを選ぶための判断軸までを体系的に解説します。
この記事でわかること
① マネージドサービスやフルマネージドサービスとは
② マネージドサービスの利用メリット・デメリット
③ マネージド・フルマネージドの使い分け方
④ マネージドサービスプロバイダー(MSP)のサポート範囲
⑤ MSPの選定方法
目次
マネージドサービスとは?

マネージドサービスの概要
マネージドサービス(Managed Service)とは、サーバーやネットワーク、データベースなどインフラ層の運用管理を専門会社に委託し、企業はアプリケーション開発や事業成長に専念できるようにするアウトソーシング形態を指します。
「マネージドサービスプロバイダー(Managed Service Provider)」略してMSPと呼ばれる専門家へ監視・障害対応・バックアップ・パッチ適用など、日常的に発生するインフラ運用を代行することで、限られた社内リソースでも安定したシステムを維持できます。
クラウドサービス(AWS/Azure等)におけるマネージドサービスの概要
クラウドサービスプロバイダー(例えばAWSやAzure)も、自社クラウド上で提供する様々なサービスについて「マネージド」を謳っています。クラウドにおけるマネージドサービスとは、クラウド事業者がインフラやソフトウェアの管理・運用をユーザーに代わって担ってくれるサービスのことを指すことが一般的です。
例えば、クラウド利用者が自前でサーバOSのセットアップやパッチ適用、ミドルウェアのチューニングを行わなくても、クラウド側でこれらを自動実施してくれるようなサービスが該当します。AWSではデータベースのAmazon RDSやストレージのAmazon S3などが代表的で、いずれも冗長構成や自動フェイルオーバー、データレプリケーションといった高可用性を実現する仕組みをAWSが備えています。
また、AzureでもAzure SQL DatabaseやAzure App Serviceなど、インフラ管理不要で利用できるサービスがあり、GCPにもCloud SQLやBigQueryといったマネージドサービスがあります。
フルマネージドサービスとの違い
「フルマネージドサービス」は、マネージドサービスよりも提供範囲がさらに広範囲に及ぶアウトソーシングサービスです。一見似た用語ですが、マネージドとフルマネージドではサービス内容の思想が異なります。
フルマネージドでは、基本的にサーバ管理に関するあらゆる業務を丸ごと任せられるというケースが一般的です。例えば、マネージドサービスではオプション扱いで別料金になることの多いセキュリティ監視や24時間365日の障害対応、定期的なコンサルティングなども、フルマネージドサービスには最初から含まれている場合があります。つまりユーザー企業はフルマネージドサービスを利用することで、日々のシステム運用に関するほぼ全ての作業をサービス提供側に任せることができます。
マネージド/フルマネージドサービスのメリット

運用負荷・コストの大幅削減
自社で専門のインフラ技術者を常時確保・育成するには人件費や研修費がかかりますが、運用をマネージドサービスプロバイダーに委託すればそれらのコストを抑制できます。特に中小企業にとって、24時間体制の監視要員を自前で揃えるのは難しいケースが多いため、外部サービスの活用は費用対効果に優れています。
専門知識不要で高度な運用体制を実現
経験豊富な外部のエンジニアチームに運用を任せることで、高度な専門知識や最新の技術を自社システムに取り入れられます。その結果、システム運用のパフォーマンス向上やトラブル発生時の迅速な対応が期待できます。例えばクラウドに特化した専門家がシステムの監視や対応を行うことで、障害時の原因究明や復旧が格段に早くなるといったことが考えられます。
可用性・信頼性の担保
プロの目で24時間365日システムを監視・管理してもらうことで、不具合の予兆検知や迅速な復旧が可能になり、システムの安定稼働率が高まります。実際、フルマネージドサービスを導入すれば、社内リソースを最小限に抑えつつ安定したシステム運用が可能になると報告されています。
コア業務への集中
煩雑なインフラ運用から開放されることで、情報システム部門の人材を自社のコア業務(新サービス開発やDX推進など)に振り向けられます。結果としてビジネス価値の高い活動にリソースを集中でき、企業全体の生産性向上につながります。
マネージド/フルマネージドサービスのデメリット

ランニングコストの上昇リスク
マネージドサービスの利用において最も注意すべき点の一つが、長期的なランニングコストの上昇リスクです。初期導入時には自社運用と比較してコストメリットが明確であっても、サービス利用量の増加やセキュリティ機能などの追加により、想定以上の費用が発生する可能性があります。
特にクラウドに代表される従量課金制のサービスでは、システムの利用が拡大するにつれて月額料金が急激に増加するケースが散見されます。また、サービスプロバイダーの料金改定により、既存契約においても費用負担が増加する場合があります。
一方で、社内での運用を検討して専門人材を雇用するための人件費やシステム障害による機会損失を考慮すると、結果としてマネージドサービスの利用がコストを抑えることができるケースもあるため、費用対効果を吟味することが大切です。
ベンダーロックインの懸念
特定のマネージドサービス事業者に長期間依存すると、途中で他社へ乗り換えたり自社運用に切り戻したりすることが難しくなる傾向があります。その要因としては契約上の縛りや、ベンダー独自ツールへの依存、さらには移行コストやリードタイムの面でハードルが高くなるためです。「気軽に契約したが抜けられなくなった」という事態を避けるためにも、契約条件や将来的に自社運用に切り戻しが可能かなどを事前によく確認する必要があります。
サポート範囲の制限
委託する範囲を決められる反面、保守ベンダーの用意したメニュー以上のことは対応が難しいケースが一般的です。例えば特定のレガシーシステムや特殊な業務に関しては、汎用的なマネージドサービスではカバーできないことがあります。その結果、すべての運用業務を一社に任せきれず、複数の外部サービスを組み合わせなければならないケースも出てきます。このように外注先が増えると、その管理コストや連携の手間も新たな課題となってきます。
マネージド vs フルマネージド それぞれの使い分け
マネージドサービスがおすすめのケース
自社内に不足する部分のみを補完したい場合は、通常のマネージドサービスが向いています。例えば社内にネットワークやサーバーの基本スキルはある程度あるが、クラウド運用やセキュリティ監視の専門知識が不足しているといったケースです。そうした特定分野で社内に十分な専門知識やスキルがない場合、マネージドサービスを活用して弱点を補強するのが有効です。
実際のユースケースとしては、社内で対応しにくい領域(例:24時間のネットワーク監視やクラウド環境の最適化)だけを外部委託し、他は自社で管理するといったハイブリッド運用での利用が考えられます。このように部分的なアウトソーシングにより、必要最小限の委託で効率化を図れるのがマネージドサービスのメリットです。
フルマネージドサービスがおすすめのケース
一方で先ほどのメリットでも触れた、社内に専任のIT担当者がおらず自社で運用管理が難しい場合やコア業務に専念したいという状況が顕著なケースには、フルマネージドサービスの利用が適しています。
想定される例としては、新規事業の立ち上げやシステム刷新プロジェクトに社内リソースを集中させたい場合は、日常のインフラ運用はフルマネージドサービスを利用して丸ごとプロに任せるというケースなどです。
主要クラウド別のマネージド(フルマネージド)サービス
AWSの代表的なマネージド(フルマネージド)サービス
- Amazon S3 (Simple Storage Service)
スケーラブルなオブジェクトストレージサービスで、データの保存、取得、管理をAWSがフルマネージドで行います。 - Amazon RDS (Relational Database Service)
リレーショナルデータベース(MySQL, PostgreSQLなど)のセットアップ、運用、スケーリング、パッチ適用、バックアップなどを自動化するフルマネージドサービスです。 - AWS Lambda
サーバーのプロビジョニングや管理なしにコードを実行できるサーバーレスコンピューティングサービスで、イベントに応じてコードを自動的に実行します。 - Amazon DynamoDB
高速で柔軟なNoSQLデータベースサービスで、サーバーやストレージのスケーリング、可用性、耐障害性をAWSがフルマネージドで提供します。 - Amazon ECS (Elastic Container Service)
Dockerコンテナのデプロイ、管理、スケーリングを容易にするコンテナオーケストレーションサービスで、基盤インフラの管理負担を軽減します。
Azureの代表的なマネージド(フルマネージド)サービス
- Azure App Service
Webアプリケーション、モバイルバックエンド、APIなどの開発、デプロイ、スケーリングを簡単に行えるフルマネージドなPaaS(Platform as a Service)です。 - Azure SQL Database
Microsoft SQL Serverをベースとしたフルマネージドなリレーショナルデータベースサービスで、パッチ適用、バックアップ、高可用性を自動化します。 - Azure Functions
サーバーレスコンピューティングサービスで、イベントに応答してコードを自動的に実行し、インフラの管理は不要です。 - Azure Cosmos DB
グローバル分散型のマルチモデルNoSQLデータベースサービスで、低レイテンシ、高スループット、弾力的なスケーラビリティをフルマネージドで提供します。 - Azure Kubernetes Service (AKS)
Kubernetesクラスターのデプロイと管理を簡素化するマネージドサービスで、コントロールプレーンの運用をAzureが担当します。
Google Cloudの代表的なマネージド(フルマネージド)サービス
- BigQuery
フルマネージドなペタバイト規模のデータウェアハウスで、複雑なクエリを高速に実行し、インフラ管理は不要です。 - Cloud Functions
イベント駆動型のサーバーレスコンピューティングサービスで、コードを記述するだけで実行環境のプロビジョニングや管理はGoogleが担当します。 - Cloud Spanner
グローバル分散型でスケーラブルなリレーショナルデータベースサービスで、トランザクション整合性と高可用性をフルマネージドで提供します。 - Google Kubernetes Engine (GKE)
Kubernetesクラスターのデプロイ、管理、スケーリングを容易にするマネージドサービスで、コントロールプレーンの運用をGoogleが担当します。 - Cloud SQL
MySQL, PostgreSQL, SQL Serverなどのリレーショナルデータベースをフルマネージドで提供し、パッチ適用、バックアップ、レプリケーションなどを自動化します。
MSPが提供するマネージドサービスで代行可能な業務内容
マネージドサービスプロバイダーが提供するマネージドサービス(フルマネージドサービス)では具体的にどのような業務を代行してもらえるのでしょうか。サービス提供者やサービスプランなどでも異なりますが以下では一般的に代行可能な業務内容について見ていきましょう。
24時間365日監視・障害対応
常時監視と迅速な障害対応は、マネージド(フルマネージド)サービスの中核となる業務です。多くのMSPはデータセンターやクラウド上のシステムを24時間365日体制で監視し、異常を検知すると早急に通知・対処します。
具体的には、サーバやネットワーク機器の死活監視、リソース使用率や応答遅延のモニタリング、ログ監視などを自動化ツールと有人のオペレーターの組み合わせで行います。もし閾値を超えるアラートが発生した場合、夜間・休日であっても待機中のエンジニアが内容を確認し、必要に応じて一次対応(サービス再起動やスケールアウト実施など)を実行します。
そして、障害対応完了後の障害報告も委託することが可能です。発生したインシデントについて、時間経過や対応状況をまとめてサービス利用企業の担当者へ報告し、必要であればMSPから根本原因や再発防止策の提案、実行まで行います。
バックアップ/リカバリ設計・実行
データのバックアップ取得と復旧(リカバリ)対応も、マネージドサービスで代行可能な業務の一つです。ITインフラにおいてバックアップは不可欠ですが、適切な頻度・手法で実施し、いざという時確実にリストアできる体制を組むには専門知識と手間がかかります。マネージドサービスを利用すれば、こうしたバックアップ戦略の立案から日々の実行管理までをプロに任せることができます。
どのデータをどのタイミングで、何世代保持するか(世代管理)、暗号化はどうするか、など業務要件とリスクに応じたバックアップポリシーの設計・計画を策定してくれます。このような設計に沿って、スクリプトや専用ツールを用いて定期的にスナップショットやデータエクスポートが行われ、その結果が監視下でチェックされます。
そして有事の際のリカバリ作業も任せられます。仮にデータが消失・破損した場合、直近のバックアップからの復旧手順を迅速に実行してもらえます。重要システムならディザスタリカバリ(DR)計画に基づき、別サイトでシステムを立ち上げ直すことも可能です。
例えば「本番サーバが停止したので、直前のバックアップを用いて予備サーバでサービスを再開する」という対応も、手順書に沿ってMSPが代行します。これによりRTO/RPO(復旧時間目標/目標復旧点)を短縮でき、事業継続性の向上につながります。金融機関や医療機関などデータ消失が許されない業種では、マネージドサービスによる盤石なバックアップ体制の構築は特に大きな安心材料となるでしょう。
セキュリティパッチ適用・脆弱性管理
サーバOSやミドルウェア、ネットワーク機器に対するセキュリティパッチの適用や脆弱性情報の管理も、マネージドサービスで代行可能な業務です。昨今のシステム運用では、新たな脆弱性が日々報告される中で迅速に対策を講じることが求められます。これを自社だけで完遂するのは難しく、MSPに任せることでセキュリティリスクを低減できます。
具体的には、MSP側でWindowsやLinuxのOSアップデート、データベースやWebサーバなどミドルウェアのセキュリティ修正プログラムについて、適用の必要性を判断し、運用に支障の少ない時間帯に反映するといったスケジュールを組みます。
実行する際は事前にテスト環境で検証を行い、本番反映時は必要に応じて冗長構成の片系ずつ切り離して当てるなど、サービス影響を最小化する手順で進めます。適用後はシステムの健全性を確認し、万一問題があれば迅速にロールバックする体制も取られます。
またMSPは脆弱性情報の収集と評価も代行します。各種クラウドベンダーや情報機関から発表される脆弱性アラート(例えば「深刻度CriticalのOpenSSL脆弱性公開」など)に目を配り、自社システムへの影響の有無をチェックします。影響がある場合はどの程度致命的か評価し、前述のように適用すべき対策(パッチ適用や設定変更)があれば迅速に提案・実施します。ゼロデイ(パッチ未提供)の場合も代替防御策(ファイアウォールなど)を講じます。
さらにWAF(Webアプリケーションファイアウォール)の導入・運用やウイルス対策ソフトの管理、ファイアウォールルールの最適化など、総合的なセキュリティ強化策も依頼可能です。
パフォーマンスチューニング
システムのパフォーマンス監視とチューニング(性能最適化)も、マネージドサービスが担う重要な役割です。ユーザー数増加やデータ量拡大に伴い、サーバのレスポンスが遅くなったり処理が追いつかなくなったりすることがありますが、MSPはそうした状況を常時監視し、必要に応じて迅速な設定変更やリソース増強を提案・実施してくれます。
まず日々の運用で、CPU使用率・メモリ消費・ディスクI/O・ネットワーク帯域といった各種メトリクスを可視化し、性能劣化の兆候を捉えます。例えば平均応答時間が徐々に悪化していれば、DBのクエリ負荷が原因か、アプリ層のスレッド不足か、といった切り分けを行い、根本原因を突き止めます。
具体的なチューニング作業としては、Webサーバであればタイムアウト値やワーカープロセス数を最適化したりといった設定変更があります。また明らかにリソース不足の場合はサーバスペックのアップグレードや増設(クラウドならインスタンスタイプ変更やスケールアウト)を提案・実施します。
コスト最適化
マネージドサービスの提供範囲には、クラウド利用料や運用コストの最適化支援も含まれる場合があります。特にクラウド環境では、設定次第で大きく料金が変動するため、MSPの知見を活かして無駄なリソースを省きコスト削減を図ることが可能です。
具体的なコスト最適化策として、まずリソースの適正割り当てがあります。CPUやメモリが恒常的に余っているサーバがあれば、より小さいサイズにダウンサイジングする、あるいは一台に統合するといったことを提案します。
逆にピーク以外は遊休状態のリソースが多い場合、スケジューリングにより停止(夜間はシャットダウンして課金停止)する運用も検討します。クラウドではこれが容易なため、MSPの助言で実行した結果、利用しない時間帯のコストを削減できることがあります。
加えて、アーキテクチャ自体の見直し提案も行われます。より安価なサービスへの置き換えや、コンテンツ配信にCDNを導入してオリジンサーバーの負荷とデータ転送量を減らす、といった改善策です。MSPは複数のお客様の環境を運用保守している経験や実績を踏まえコスト効率の良いパターンを提案してくれるでしょう。
MSP(代行会社)選定時のチェックポイント
ここまでで、マネージドサービス(フルマネージドサービス)で何を代行できるかについて解説いたしました。続いては、実際にMSPへ業務の代行をする際にどのようなポイントで業者を選定するべきかという選定方法について触れていきます。
サービス範囲と対応レベルの明確化
マネージドサービス提供ベンダーを選定する際は、まずその会社が提供できるサービス範囲と対応可能なレベルを明確に確認することが重要です。先ほど一般的にMSPへ代行できる業務を取り上げましたが、MSP各社で代行可能な業務内容は異なるため、自社がアウトソースしたい範囲をカバーしているか慎重に見極めましょう。
例えば、あるベンダーはクラウド上のサーバ監視に特化しているがオンプレミスは対象外かもしれませんし、AWSは得意だがAzureは未対応というケースもあります。したがって自社システムの環境にマッチしたサービスかをチェックする必要があります。
もし複数のクラウドを利用しているなら、マルチクラウド対応のMSPを選ぶか、それぞれのクラウドで認定されたMSP(例えば「AWS認定マネージドサービスプロバイダ」)を検討するのも手です。
またサービス範囲だけでなく、対応レベル(深さ)も確認すべきポイントです。単に「監視します」では具体的にどこまでしてくれるのかが重要で、例えば「障害発生時に通知のみなのか一次復旧まで行うのか」「障害原因の分析や再発防止策提案まで含むのか」などを事前に確認します。
さらにセキュリティ面では、脆弱性対応やログ監視、インシデント対応がサービスに含まれるか否かも大きな違いです。多くのマネージドサービスでは標準では監視と通知、一次対応までが基本範囲で、根本対応やチューニング、コンサルティングはオプションとなっていることも少なくありません。
そのため、自社が期待する「ここまでやってほしい」が標準で含まれているのか、オプションなら追加費用や契約が必要かを詰めておきましょう。サービスカタログやSLA文書を取り寄せ、具体的な作業一覧や対応時間帯、除外事項などを明らかにすることが大切です。
このように契約範囲を明確化することは、後々のトラブル防止にも直結します。お互いの責任分界点をはっきりさせ、「これはこちらで行う、ここから先はベンダーが対応」という線引きを契約書や運用プロセスに落とし込んでおけば、万一の障害時にも混乱せずスムーズに対処できます。選定段階で細部まで擦り合わせを行い、サービス範囲と対応レベルを十分に理解・合意した上でMSPを決めることが、満足度の高い業務代行の第一歩となります。
サポート体制の比較
次に重視すべきは、ベンダーのサポート体制です。具体的には、対応時間・スタッフ体制・技術力・コミュニケーション手段などを比較検討しましょう。まず対応時間については、24時間365日のフルサポートが必要なのか、平日日中だけで足りるのか、自社の要件に応じて合致するベンダーを選びましょう。
多くのMSPは24時間365日の監視を提供していますが、中には夜間は自動監視のみで翌営業時間に対応、という所もありますので注意しましょう。またエスカレーション体制も確認ポイントです。自動復旧などによる一次対応で解決できない場合に、上位の熟練エンジニアや専門チームに引き継ぐ流れが整備されているか、障害の深刻度に応じてどのように動いてくれるのかを把握しておくべきです。
スタッフ体制においては、専任担当者が付くのか、属人化を防ぐためにケースごとに様々な担当者がアサインされる体制なのかなど、自社としてどちらが望ましいかを考慮しましょう。加えてSLAとして初期応答時間や解決までの目標時間を定めているベンダーもありますので、その値も比較材料になるでしょう。
料金プランの透明性
MSPの選定で重要かつ注意すべき点として、料金プランの分かりやすさ・透明性が挙げられます。なぜならマネージドサービスの料金体系とその対応範囲は各社様々で、サーバー台数や利用リソース量に応じた従量課金、固定の月額料金、チケット制での対応など多岐にわたるためです。そのため、何に対してどれくらい費用が発生するのかを明確に把握できるプランを選ぶことが大切です。
プランに関して確認すべき点として、オプション費用や追加料金の条件が挙げられます。例えば、夜間対応や緊急対応は別料金なのか、障害報告書の作成をはじめレポート作成や能動的なコンサルティングは有償か、といった細部まで確認しましょう。
また初期費用の有無や、料金改定のルールも確認すべきです。契約時に構築支援費用など初期費が発生することがありますが、それが適切な価格かなどを検討しましょう。さらに、AWSなど国外のクラウドサービスを利用する際は為替影響を受け価格改定が発生するのかなど、将来的な値上げ条件がある場合も事前に知っておきましょう。
最後に、料金の透明性として請求の明細が細かく提示されるかもポイントです。何にいくらかかったのか明細が開示されず総額のみ請求だと、適正な価格かどうかの判断が困難になります。逆に、サーバ単位・項目単位で細かく記載されていれば、自社の内製で対応する場合との費用対効果の比較検証にも役立ちます。
実績・導入事例の確認
MSPの信頼性を測る上で、過去の実績や導入事例を確認することも欠かせません。公式サイトや提案資料に掲載されている導入事例をチェックし、自社と近しい業種・規模での成功例があるかを探りましょう。例えば同じようなWebサービス業界のシステムを任せていて可用性が向上した事例や、サーバー稼働率などの事例などがあれば心強い材料となります。
最後に、第三者評価や認定も参考になります。ISOの情報セキュリティ認証を取得しているか、クラウド提供元の公式パートナー認定を受けているか(例:AWS サービスパートナー、さくらのクラウドのセールスパートナー、Azure Expert MSPなど)、業界アワードの受賞歴があるかなどです。このように高い技術力とサービス品質を客観的に評価されている情報も押さえておきましょう。
マネージド(フルマネージド)サービスプロバイダー5社の紹介
クロジカサーバー管理(TOWN株式会社)

クロジカサーバー管理は、2004年の創業以来、法人向けにクラウドに精通したエンジニアによる高度なセキュリティを担保したクラウド運用を提供し続けています。有人対応の技術は当然のことながら、独自の自動復旧システムの構築により安定したサーバー環境を実現しています。 AWSコンサルティングパートナーやさくらのセールスパートナーとして、可用性とセキュリティを重視したクラウドの導入支援から運用保守まで一貫してサポートをするMSPです。現在は、クロジカシリーズ合計で1,800社以上の導入実績があり中小企業から大手上場企業まで幅広い支援を行っています。
クラウドエース株式会社

クラウドエース株式会社は、Google Cloud Platformの専門MSPとして知られる企業です。Google Cloudのプレミアパートナーであり、日本国内トップクラスの導入実績と技術者を擁しています。提供するサービスは、Google Cloud環境の設計・構築から24時間の監視・運用代行、障害発生時の復旧支援までワンストップで対応しています。
加えて、Google Cloudの公式トレーニングパートナーであったり、書籍執筆やコミュニティ活動でも精力的で、Google Cloudに関する知名度・信頼度が非常に高い企業です。Google Cloudを主軸にクラウド運用を任せたい企業にとっては、最有力候補の一つと言えるでしょう。
アイテック阪急阪神株式会社

アイテック阪急阪神株式会社は、阪急阪神東宝グループのITインフラ・クラウドソリューション企業で、オンプレミスからクラウドまで幅広い運用サービスを提供する老舗SIerです。自社データセンターの運営実績や、大企業向けのサーバ運用経験が豊富で、そのノウハウを活かしたマネージドサービスを展開しています。特に同社の「フルマネージドクラウド」サービスは、クラウド環境の構築から運用・監視まで一貫して引き受ける統合型サービスとして支持されています。
株式会社G-gen

株式会社G-gen(ジージェン)は、旧株式会社トップゲートが合併改称して誕生した企業で、Google Cloudを中心としたクラウドインテグレーション・運用サービスを提供しています。トップゲート時代からGoogle技術に精通したエンジニア集団として知られ、Google Cloud Premierパートナーとして数多くのGoogle Cloud導入支援を手掛けてきました。
G-genのサービス範囲は、戦略立案やコンサルティングから開発、運用保守までワンストップで任せられる点に特色があります。特にGoogle Cloudの技術力を背景に、クラウドアーキテクチャ設計からインフラ構築、自動化パイプラインの整備、そして24時間の監視・運用サポートまで包括的に支援しています。
株式会社サーバーワークス

株式会社サーバーワークスは AWS専業のクラウドインテグレーター として 2009 年から AWS に特化したインテグレーション事業を展開し、2014 年には日本で初めて AWS Partner Network のマネージドサービスプロバイダー(MSP)コンピテンシーを取得した老舗ベンダーです。現在も AWS パートナーの最上位資格である 「AWS プレミアティアサービスパートナー」を数年連続で保持 しており、国内トップクラスの技術力と実績が評価されています。
エンタープライズ企業の大規模移行や運用を数多く支援しており、案件規模に応じて24時間365日の監視・運用代行、SREチームによるパフォーマンス最適化、FinOpsまでを視野に入れたコスト最適化コンサルティングまでワンストップで提供しています。
参照:https://www.serverworks.co.jp/
AWS運用保守会社の具体的なサポート範囲について
クロジカ(TOWN株式会社)のマネージドサービス事例
上場企業様のコーポレートサイト運用事例

導入概要
ある上場企業様のコーポレートサイトを、AWS上で“無停止”運用に刷新しました。独自のセキュリティアプライアンスを経由した通信を維持しつつ、手動メンテナンス時のダウンタイムをゼロに抑えることがお客様の目的でした。
技術ポイント
まず Web/アプリケーション層の前段にElastic Load Balancer(ELB)を配置し、WordPress更新用の新EC2を事前に構築しました。ELBのターゲット切替だけで本番機を入れ替える方式により、公開中でも安全にアップデート可能となりました。また「秘密鍵を社外へ渡さない」というお客様のセキュリティポリシーを守るため、ELB側はAWS Certificate Manager(ACM)による証明書運用を採用し、セキュリティアプライアンス→ELB間も再度SSLで暗号化を行いました。
導入効果
セキュリティアプライアンス通過後もHTTPSを維持しつつ、WordPressの脆弱性パッチやテーマ改修時にダウンタイム0秒を実現。既存資産を活かしつつ高可用・高セキュリティな運用基盤へ移行を実現した事例です。
突発的なアクセス増加があるWordPressサイトの運用保守

導入概要
テレビ放映のたびにアクセスが急増する上場企業様のWordPress コーポレートサイトを、AWS 上で“止まらない”冗長構成へ刷新した事例です。サーバーダウンによるブランド毀損と機会損失を防ぐことが最大の目的でした。
技術ポイント
Web層前段にApplication Load Balancer(ALB)を置き、2台のEC2へトラフィックを分散。管理画面だけは運用簡素化のため主系に固定し、lsyncd+rsyncでファイルをリアルタイム同期しました。データベースはAmazon RDSのマルチAZ構成で自動フェイルオーバーを確保しました。
導入効果
テレビ露出やキャンペーン時も負荷は平準化され、移行後はダウンタイムゼロを継続。管理URLや運用フローは従来通りで、担当者様の負担を増やさず高可用性・信頼性を実現しました。コストを抑えつつブランド価値を守った事例となっております。
その他の導入事例はこちら
マネージド/フルマネージドサービスに関するよくある質問(FAQ)
一般的な契約期間・解約条件について

Q:マネージドサービスを利用する際の契約期間は通常どれくらいで、途中解約の条件はどのような例がありますか?

A:多くのマネージドサービス契約では12ヶ月または36ヶ月の期間契約が一般的です。※1。MSPによっては初回は1年間の最低利用期間を設定し、その後は自動更新で年ごと、あるいは月ごとの契約に移行するケースがあります。
一方、解約条件については契約書に明記されるのが通常です。一般的には解約の申し出期限が定められており、「更新(または契約終了)の◯ヶ月前までに書面で通知すること」といった条項があります。例えば90日前までに解約通知が必要という例では、契約満了の3ヶ月前を過ぎると自動更新されてしまうので注意が必要です。
途中解約(契約期間中の解約)に関しては、ベンダーによって対応が異なります。期間の定めのある契約の場合、最低利用期間内での中途解約は原則できないか、できても残余期間の料金支払いが発生するケースが多いです。
※1 参考:https://mbrteknoloji.com.tr
費用の算出要素や一般的な費用相場

Q:マネージドサービス利用時の費用は具体的に何を元に算出されるのですか?

A:マネージドサービスの費用は主に管理対象の規模と内容によって決まります。代表的な算出要素としては以下が挙げられます:
- サーバーや機器の台数/スペック:何台のサーバーを管理するか、そのサーバースペックはどれくらいか(CPU/メモリなど)で料金が変動します。台数×単価で計算するベンダーもあれば、台数区分ごとの定額制の場合もあります。
- サービスの範囲:監視だけなのか、障害対応まで含むのか、バックアップやセキュリティ対応も含むのか、といった範囲の広さで料金が変わります。フルマネージドで範囲が広いほど高く、限定的なほど安くなる傾向です。
- 対応時間帯:平日日中(例:09:00~17:00)のみか、24時間365日対応かで大きく異なります。24/365フルサポートは人件費もかかるため割高です。
- SLA水準や対応レベル: 例えば応答時間や復旧時間目標が厳しい(より手厚い)ほど費用も上乗せされることがあります。
- オプションサービス: レポート提供、コンサルティング、特定ソフトウェアの管理などオプションを付けると追加料金となります。
一般的な価格感としては、中小規模システム(サーバ2~3台以下)なら月額15~30万円程度から、エンタープライズ規模(サーバ百台以上)では月額300 万~600 万円になるケースもあります。
監修者:クロジカサーバー管理編集部
コーポレートサイト向けクラウドサーバーの構築・運用保守を行うサービス「クロジカサーバー管理」を提供。上場企業や大学、地方自治体など、セキュリティ対策を必要とするコーポレートサイトで250社以上の実績があります。当社の運用実績を踏まえたクラウドサーバー運用のノウハウをお届けします。リティ対策を必要とするコーポレートサイトで250社以上の実績があります。当社の運用実績を踏まえたクラウドサーバー運用のノウハウをお届けします。
コーポレートサイトをクラウドでセキュアに

サーバー管理
クロジカガイドブック
- コーポレートサイト構築・運用の課題を解決
- クロジカサーバー管理の主な機能
- 導入事例
- 導入までの流れ