ハイブリッドクラウドのメリット・デメリットとは?AWSでの事例までご紹介!

こんにちは。「クロジカサーバー管理」 IT/テックライターのkait78です。今回は、クラウド化の第一歩である「ハイブリッドクラウド」について、既存のオンプレミス環境やクラウドの特徴を踏まえながら解説していきます。

この記事でわかること

① ハイブリッドクラウドの基本概念
② マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い
③ ハイブリッドクラウドのメリット・デメリット
④ ハイブリッドクラウドの導入方法
⑤ AWSを活用したハイブリッドクラウドの活用事例

ハイブリッドクラウドとは

ハイブリッドクラウドとは、パブリッククラウド・オンプレミス型プライベートクラウド・ホスティング型プライベートクラウドから2つ以上を組み合わせたITインフラ環境のことを指します。それぞれ見ていきましょう。

パブリッククラウド

パブリッククラウドとは、AWS(Amazon Web Service)やMicrosoft Azureなどの外部のクラウドプロバイダーが用意した環境を、他の利用者と共同利用する手法です。既に用意されたサーバーを利用するため、構築スピードが早く、手軽に構築ができます。また、システム負荷に応じてサーバーのスペックを簡単に変更が可能な拡張性というメリットもあります。しかし、従量課金制のためコストが見えづらい、セキュリティ面のリスクなどのデメリットもあります。

パブリッククラウドとは?

▼各クラウドサービスの違いについての解説記事はコチラ
AWS、Azure、GoogleCloudの違いをわかりやすく解説

プライベートクラウド

プライベートクラウドは、オンプレミス型とホスティング型に分けられます。

オンプレミス型プライベートクラウド

オンプレミスとは、英語の「On the premises」から来ており、企業のオフィス内にサーバーを設置している環境を指します。従来は一般的な管理方法でしたが、クラウド環境の普及に伴いオンプレミスと呼ばれるようになりました。自社内にサーバーが設置されているため、セキュリティのコントロールがし易いメリットがあります。しかし、物理的なサーバーセキュリティや電気設備のメンテナンスが必要というデメリットもあります。

【図解】パブリッククラウドとオンプレ型プライベートクラウド

ホスティング型プライベートクラウド

ホスティング型プライベートクラウドとは、クラウド事業者が提供するクラウドサービスを、自社専用で利用する形態を指します。オンプレミス型よりも早く構築が可能で、パブリッククラウドよりも安全性が高い特徴があります。しかし、占有利用するためコストが高いというデメリットがあります。

【図解】パブリッククラウドとオンプレ型&ホスティング型プライベートクラウド

マルチクラウドとの違いは?

マルチクラウドが複数のパブリッククラウドを併用するのに対し、ハイブリッドクラウドはパブリッククラウドとプライベート環境(オンプレミス含む)を組み合わせる点が大きな違いです。マルチクラウドはベンダーロックインを避けることが主な目的ですが、ハイブリッドクラウドは各環境(オンプレミスとクラウドなど)の利点を最大限に活用することを目指します。

【図解】マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い

ハイブリッドクラウドのメリット

次に、ハイブリッドクラウドのメリットを見ていきましょう。ここでは、オンプレミス環境とパブリッククラウドを利用したハイブリッドクラウドを前提としてご紹介します。

オンプレミス・クラウドの「良いとこどり」

ハイブリッドクラウドでは、オンプレミスとクラウド環境の良いとこどりが可能です。

例えば、企業内で個人情報などを取り扱うセキュリティが必要なシステムはオンプレミスに、標準的なセキュリティ要件で運用可能なシステムや負荷変動が激しいシステムはクラウドに構築することができるなど、最適な環境を構築できます。

オンプレミスに戻す or クラウド移行の判断ができる

ハイブリッドクラウドの運用期間を、クラウド移行の判断期間としても利用できます。オンプレミス環境とクラウド環境では、サービスの考え方やそれに対する業務方法も異なります。自社システムを完全にクラウド移行するには沢山のコストと期間が必要です。

また、自社のサービスや組織とクラウドが合わなかった場合、クラウドからオンプレミス環境に戻すにもさらにコストが掛かります。自社のシステムの一部のみをクラウドに移行して、実際の費用や運用フローを確認し、今後の運用形態の判断材料としましょう。

ハイブリッドクラウドのメリット

▼オンプレミスからクラウド環境に移行する際の注意点についてはコチラ
ホームページのサーバーを、オンプレミスからクラウドへ移行すると何が変わるのか

ハイブリッドクラウドのデメリット

ハイブリッドクラウドはオンプレミスとクラウド環境の良いとこどりができますが、デメリットもあります。ここでは、ハイブリッドクラウドのデメリットをご紹介します。

システム・ネットワークが複雑になる

ハイブリッドクラウドでは、社内システムとクラウド上のシステムを組み合わせて使うため、全体の構成が複雑になります。たとえば、顧客データの一部は社内で管理し、別の部分はクラウドで管理する場合、両者を安全に連携させる仕組みが必要です。

また、社内システムとクラウドの間で常に最新のデータを同期させる必要があり、システムの管理者は両方の環境に精通している必要があります。さらに、システムに問題が発生した際、それが社内の問題なのか、クラウドの問題なのか、あるいは連携部分の問題なのかの切り分けが難しくなり、トラブル対応に時間がかかる可能性があります。

担当者の学習コストが発生する

クラウドを導入するに伴い、担当者のトレーニングや教育が必要です。また、クラウドだけでなく既存のオンプレミス環境も並行して運用するため担当社員の負担はこれまで以上に上がってしまいます。全て自社内でハイブリッドクラウドを構築する場合は、メンバーの増員をおすすめします。

ハイブリッドクラウドのデメリット

ハイブリッドクラウドの導入方法

ハイブリッドクラウドを導入する際には、以下の流れで進めるのが一般的です。

導入の流れ

1. 導入目的と要件を明確にする

まず、ハイブリッドクラウドを導入する目的と要件を明確にする必要があります。例えば、セキュリティやデータのプライバシーを強化したい、コスト削減を実現したい、スケーラビリティを向上させたいなど、具体的な目標を設定します。

2. 適切なクラウドサービスを選択する

導入目的と要件に基づいて、適切なパブリッククラウドサービスとプライベートクラウドサービスを選択します。パブリッククラウドサービスは、AWS、Azure、GoogleCloud Platformなどの選択肢があります。プライベートクラウドサービスは、自社で構築する、外部の企業に委託するなど、様々な選択肢があります。

3. クラウド環境を構築する

選択したクラウドサービスに基づいて、クラウド環境を構築します。パブリッククラウドサービスの場合は、アカウントを作成し、必要なサービスを契約します。プライベートクラウドサービスの場合は、サーバーやネットワーク機器などを設置し、設定を行います。

4. アプリケーションを移行する

オンプレミスで運用しているアプリケーションをクラウド環境に移行します。アプリケーションの種類や規模によって、移行方法や期間が異なります。

5. 運用・監視を行う

クラウド環境を運用し、監視を行います。セキュリティ対策やパフォーマンスチューニングなど、必要な対策を継続的に実施します。

ハイブリッドクラウド導入の流れ

ハイブリッドクラウド構築を支援するAWSのサービス

AWSは、ハイブリッドクラウド構築を支援する様々なサービスを提供しています。以下では代表的な4つのサービスについてご紹介します。

AWS Direct Connect

AWS Direct Connectは、企業の自社ネットワーク(データセンターやオフィス)とAWSクラウドを専用線で直接接続するサービスです。一般的なインターネット回線と異なり、他の利用者と回線を共有しない「専用道路」のような接続方式のため、安定した通信速度とセキュリティを確保できます。

主に社内システムの一部をAWSに移行する際や、大容量データを定期的にバックアップする場合に活用されます。また、常時安定した通信が必要なシステム運用においても効果を発揮します。

料金はポート時間(容量に応じた時間単位の料金)とデータ転送量に応じた従量料金が発生します。ただし、利用開始までには準備期間が必要です。最低利用期間の制約は明示されていませんが、長期的な利用を前提とした設計が一般的です。また、安定したサービス提供のため、バックアップ回線の確保も推奨されています。
参照:AWS Direct Connect

AWS Outposts

AWS Outpostsは、AWSのインフラストラクチャ、サービス、APIを自社のデータセンターやオンプレミス施設に拡張するフルマネージドサービスです。いわば「ミニAWSデータセンター」をお客様の施設内に設置するようなものです。

データを自社施設内で保持する必要がある規制対応や、クラウドへの移行に不安がある場合でも、AWSと同じ使い勝手でシステムを運用できる特徴があります。主に金融機関や医療機関など、データの取り扱いに厳しい規制がある業界での利用や、製造現場など通信の遅延を最小限に抑える必要がある場面で活用されます。

料金は利用するハードウェアの構成によって異なり、初期費用と月額料金が発生します。導入には電力や空調などの設備要件を満たす必要があり、AWSのエンタープライズサポート契約が前提となるため、慎重な検討が必要です。
参照:AWS Outposts サーバー,AWS Outposts ラック
*AWS Outpostsで利用できるAWSサービスには制限があります

AWS Storage Gateway

AWS Storage Gatewayは、オンプレミス環境(社内システム)とAWSのストレージサービスをスムーズに連携させる橋渡し役のようなサービスです。社内のファイルサーバーのように見えて、実際のデータはAWS上に保存される仕組みで、ユーザーは普段使い慣れた方法でクラウドストレージを利用できます。

主にデータバックアップやアーカイブ、データセンターの移行時に活用され、特に大容量データを扱う場合に効果を発揮します。また、よく使うデータは手元に、使用頻度の低いデータはクラウドに、という使い分けも可能です。

料金は使用するストレージ容量や転送データ量、また、ゲートウェイの稼働時間に応じた料金も発生します。一方で初期費用は不要です。導入にあたっては、ネットワーク環境や既存システムとの互換性の確認が必要で、データ転送にかかる時間やコストも考慮する必要があります。
参照:AWS Storage Gateway

AWS Systems Manager

AWS Systems Managerは、クラウドとオンプレミスのシステムを一元的に管理できるサービスです。AWSのリソースだけでなく、オンプレミスのサーバーや他のクラウドプロバイダーのリソースも含めて統合的に監視や制御が可能で、運用作業の自動化や環境の可視化を実現します。

複雑なシステム環境を持つ企業や、クラウドとオンプレミスを併用している組織で特に有効です。基本的な機能は無料で利用できますが、一部の高度な機能は有料です。導入にはAWSの知識が必要で、セキュリティ設定に注意が必要ですが、運用効率の大幅な向上が期待できます。
参照:AWS Systems Manager
*管理対象のインスタンスにはSSMエージェントのインストールが必要

ハイブリッドクラウド構築に役立つAWSサービス

ハイブリッドクラウドの活用方法

ハイブリッドクラウドはオンプレミス環境のみでは実現できない、ピーク時のリソース拡張や災害復旧、データのバックアップの際に有効な手段となります。以下では、ハイブリッドクラウドに向いているケースから活用法を見ていきましょう。

ハイブリッドクラウドが向いている企業やケースとは?

ハイブリッドクラウドは、以下のような企業やケースに適しています。それぞれのケースについて一般的に活用されている例などを挙げながら解説していきます。

セキュリティやデータのプライバシーを重視する企業

セキュリティやデータのプライバシーを重視する企業では、機密情報や個人情報などの重要データを自社(オンプレミス)で管理しながら、クラウドの利点も活用できるハイブリッドクラウドが適しています。

例えば、金融機関では口座情報や取引履歴を自社のデータセンターで保管しつつ、市場分析や商品開発のためのデータ処理はクラウドで行うといった使い方をしています。また、医療機関では患者の診療記録は院内で厳重に管理し、研究データの解析や医療画像の処理にクラウドを活用するケースが増えています。

このように、データの重要度に応じて保管場所や処理方法を使い分けることで、セキュリティの確保やコンプライアンス要件を満たしながら業務の効率化を図ることができます。

スケーラビリティを重視する企業

スケーラビリティを重視する企業にとって、ハイブリッドクラウドは理想的な選択肢です。通常の業務はコスト効率の良いプライベートクラウドやオンプレミス環境で運用しつつ、需要の急増時にはパブリッククラウドのリソースを柔軟に追加できるからです。

例えば、eコマース企業やオンラインゲーム会社では、セール時や新製品発売時の一時的なトラフィック増加に対応するためにこの方式を採用しています。具体的には、通常のウェブサイト運用はプライベート環境で行い、アクセス集中時にはパブリッククラウドで自動的にサーバーを増強するといった使い方が一般的です。これにより、オンプレミスの際にかかってくる設備投資といったコストを抑えつつ、ビジネスの成長や変動に柔軟に対応できます。

災害復旧を重視する企業

災害復旧を重視する企業にとっても、ハイブリッドクラウドは理想的な選択肢です。なぜなら、重要なデータや業務システムをオンプレミスで管理しつつ、バックアップや代替システムをクラウドに配置することで、災害時の迅速な復旧が可能になるからです。

例えば、金融機関や製造業、医療機関などの業務停止が許されない企業がこの方式を採用しています。一般的な活用方法として、日常的な業務はオンプレミス環境で行い、定期的にクラウドにデータをバックアップします。災害発生時には、クラウド上に用意された代替システムを即座に起動し、業務を継続します。これにより、物理的な災害からデータを守りつつ、迅速な事業復旧を実現できます。

レガシーシステムをクラウドに移行したい企業

レガシーシステム(古いシステム)を抱える企業にとって、ハイブリッドクラウドは段階的なクラウド移行を実現できる有効な選択肢です。古いシステムを一気にクラウドに移行するのはリスクが高いため、段階的な移行が可能なハイブリッドアプローチが適しています。

例えば、製造業や金融機関などの大規模な基幹システムを持つ企業がこの方法を採用しています。一般的な活用方法として、重要なデータ保管は既存のオンプレミス環境で維持しつつ、新しい機能(機械学習を用いた機能など)や万が一、停止しても業務に大きな影響を与えないシステムをクラウドに移行していきます。

これにより、システムの安定性を保ちながら、クラウドの柔軟性と効率性を徐々に取り入れることができ、最終的には完全なクラウド環境への移行を目指すことができます。

ハイブリッドクラウドが向いている企業やケース

AWSを活用したハイブリッドクラウド事例

日本航空株式会社様の事例(AWS)

AWSお客様事例_日本航空様

日本航空(JAL)は、AWSを活用したハイブリッドクラウド基盤「CIEL」を構築しました。この基盤は、オンプレミス環境とクラウドを組み合わせ、柔軟性と安全性を両立しています。

実際の運用方法としては、一部のシステムは社内サーバーに残しつつ、顧客対応システムなどのシステムをAWS上に移行し、236の厳しいセキュリティ基準をクリアしました。その結果、開発スピードの向上とコスト削減を実現し、特に間接部門のシステム運用コストを50%削減しました。さらに、データ分析や新技術の活用が容易になり、顧客体験の向上にも貢献しています。
参照:https://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies/jal-nec/

ここまでで解説をさせていただいたように、ハイブリッドクラウドの導入には多くの知識と経験が必要となります。また、自社内製でハイブリッドクラウドの構築をする場合は、専門知識を持つメンバーの確保や実施に伴う学習コストが必要になります。

そのため安全・安心なハイブリッドクラウド環境を構築するためにも、専門の外部企業に設計・導入の相談をおすすめします。クロジカサーバー管理でもご相談を承っておりますのでお気軽にお尋ねくださいませ!

ライター:kait78

元大手通信事業者のインフラエンジニア。ネットワーク・サーバー・AWS領域でIT/テック記事に特化した記事を執筆。Webサーバーにまつわる課題や悩みに対して実務経験を基にした、現場社員目線の課題解決となるアイデアを提供します。

監修者:クロジカサーバー管理編集部

コーポレートサイト向けクラウドサーバーの構築・運用保守を行うサービス「クロジカサーバー管理」を提供。上場企業や大学、地方自治体など、セキュリティ対策を必要とするコーポレートサイトで250社以上の実績があります。当社の運用実績を踏まえたクラウドサーバー運用のノウハウをお届けします。

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