近年、システム開発やサービス運用において注目を集めているDocker(ドッカー)。本記事では、これからDockerを学びたい方向けに、基本的な概念から特徴、メリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。
この記事でわかること
① Docker(ドッカー)の概要
② 仮想化とDockerの違い
③ コンテナとDockerの関連性
④ Dockerのメリット・デメリット
⑤ Dockerの活用事例
Docker(ドッカー)とは?
簡単な定義について
Dockerとは、アプリケーションを開発・実行するための「コンテナ型仮想化プラットフォーム」です。簡単に言えば、アプリケーションとその実行に必要な環境一式をパッケージ化し、どんな環境でも同じように動作させることができる技術です。
例えば、引っ越しを想像してみてください。家具や生活用品を段ボール箱(コンテナ)に詰めて運べば、新居でもすぐに同じ環境を再現できます。Dockerも同じように、アプリケーションとその環境を「コンテナ」に詰めて、どこでも同じように動かすことができるのです。
仮想化との違い
Dockerは、従来の仮想化技術とは異なるアプローチを採用しています。従来の仮想化技術(VMware、VirtualBoxなど)では、各アプリケーションは個別のオペレーティングシステム(OS)上で動作する仮想マシン(VM)にインストールされます。
これに対してDockerは、OSのカーネルを共有しながら、アプリケーションの実行環境だけを分離する「コンテナ型」の仮想化を採用しています。これにより、従来の仮想化技術よりもリソース消費が少なく、起動時間も短縮することが可能になります。
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仮想環境とは - クロジカテックブログ
コンテナ技術について
コンテナとは、アプリケーションとその実行に必要な環境(ライブラリやミドルウェアなど)を一つのパッケージにまとめたものです。これにより、開発環境と本番環境の差異や、異なるOSでの動作の違いなどの問題を解決できます。
コンテナとDockerの関連性について
Dockerは、コンテナ技術を使いやすくしたパッケージ化したプラットフォームです。Dockerを使うことで、コンテナの作成・配布・実行が簡単にできるようになります。例えば、コンテナの設計図となる「Dockerfile」を使えば、誰でも同じ環境を簡単に再現できます。
Dockerの主な特徴(メリット)
近年、なぜDockerが注目されているのかをDockerのメリット・デメリットから紐解いていきます。
リソース効率が良い
従来の仮想化(VM)と比べて、Dockerは軽量で起動が速く、メモリ使用量も少なくて済みます。これは、OSのカーネルを共有することで、余分なリソースの消費を抑えているためです。これにより、同じハードウェア上でより多くのアプリケーションを実行することができます。
どこでも動く柔軟性
Dockerで作成されたコンテナは、異なるOSやアーキテクチャの環境でも動作させることができます。これは、Dockerがコンテナにアプリケーションとその動作に必要なすべてのライブラリや設定ファイルを含めるためです。
そのため、開発環境、テスト環境、本番環境間でアプリケーションを簡単に移動できます。これにより「開発環境では動くのに本番環境では動かない」といった問題を大幅に減らすことはメリットと言えるでしょう。
・開発環境用のコンテナを一つ構築してそれを共有したりなど、それぞれの端末での環境構築が不要
・WindoesではLinuxでの開発は、WSL(Windows Subsystem for Linux)かdockerを使う必要がある。dockerの場合は、WSLとは異なり開発でも本番と同様のコンテナを使用した開発が可能
「Docker Hub」で様々な構成済みコンテナを取得して利用できる
Docker Hubという*Dockerイメージを保存、管理、共有するためのオンラインプラットフォームから、世界中の開発者の成果物(Dockerイメージ)をすぐに簡単に使用できる、という点も大きなメリットです。
成果物の例)WordPress, MySQL, Nginx, Apache, NextCloud, tomcat(java)
また、当然ですがこれらDocker Hubからダウンロードしたコンテナは独立した環境として機能するため、外部環境に影響を与えずに使用できます。これは先に触れた、Dockerの主要な特徴の一つであり、異なるアプリケーションやバージョンを同一ホスト上で問題なく実行できるというメリットにもつながります。こちらは重要な点ですので、改めて触れさせていただきました。
*Dockerイメージとは:コンテナを作成するための読み取り専用のテンプレート
簡単に拡張・縮小できる(スケーラビリティ)
Dockerは、コンテナの数を簡単に増減させることができます。そのため、アプリケーションの負荷に応じて、簡単にスケールアップまたはスケールダウンできます。これは、Dockerがコンテナを独立して管理できるためです。
補足としてスケーラビリティには、水平スケーリング(コンテナの数を増やす)と垂直スケーリング(個々のコンテナのリソースを増やす)があります。
一方で、スケーラビリティに関する注意点を挙げると、コンテナ単体でのスケーリングは可能ですが、コンテナの数が多くなると、実運用では手動での管理は非効率的です。そのため、Kubernetes、Docker Swarm、AWS Fargate、Azure Container Instancesなどの*オーケストレーションツールを活用することが一般的です。
*オーケストレーションとは:複数のDocker コンテナを自動的に管理、調整、スケジューリングする仕組み。例えるならば、“コンテナの交通整理”のようなイメージ
デプロイの自動化
Dockerは、アプリケーションのデプロイを自動化できます。例えば、開発者がコードをGitHubにプッシュすると、CI/CDパイプライン(JenkinsやGitLab CIなど)が自動でビルド、テスト、Dockerイメージの作成、本番環境へのデプロイを行います。
この自動化により、手動でのミスや環境の不一致を減らし、デプロイの頻度を高めることができます。結果として、開発チームは新機能や修正を迅速にユーザーに届けることができ、サービスの品質向上にもつながります。
マイクロサービスアーキテクチャに最適
これは、Dockerのメリットを集約した“まとめ”にもあたる点かと思いますが、マイクロサービスアーキテクチャに適していることもDockerのメリットと言えます。まず、マイクロサービスアーキテクチャとは。を簡単に表すと、1つの大きなシステムを小さな機能単位に分割する設計手法です。
Dockerでは、これらの小さなサービス(コンテナ)を独立して開発、デプロイ、スケーリングできます。例えば、ECサイトなら「商品検索」「決済処理」「レコメンド」など、それぞれの機能を別々のコンテナで管理できます。
これにより、特定のサービスだけを修正・更新でき、システム全体への影響を最小限に抑えられます。さらに、各サービスを独立して拡張できるため、柔軟で効率的なシステム運用が可能になります。このような理由からDockerは、これらのマイクロサービスをパッケージ化し、実行するための理想的なツールとなっております。
Dockerのデメリット
学習コストがかかる
Dockerを最大限活用するためには、コンテナ、イメージ、Dockerfile、Docker Compose、ネットワーク設定など、多岐にわたる概念を理解する必要があります。
初心者にとって、これらの技術用語や設定方法は複雑に感じられ、習得には時間がかかります。特に、セキュリティ設定、最適化、トラブルシューティングには専門的な知識が求められます。また、クラウド環境やCI/CDパイプラインとの統合など、実践的なスキルを身につけるには継続的な学習と経験が不可欠です。
“技術的な複雑さ”によるセキュリティリスク
Dockerでは、コンテナ間の分離はホストOSレベルで行われるため、適切に設定されていない場合、セキュリティリスクが生じる可能性があります。また、イメージの管理や更新を適切に行わないと、脆弱性のあるコンテナが残り続ける危険性があります。このようにDockerを使用する際には、コンテナのセキュリティ設定に十分な注意が必要です。具体的には以下のようなセキュリティリスクが潜んでいます。
- カーネル共有による脆弱性
ホストOSのカーネルを共有するため、1つのコンテナで発生した脆弱性が他のコンテナやホストシステムに影響を与える可能性。加えて、カーネルレベルの攻撃に対して脆弱。
- ルート権限での実行リスク
デフォルト設定では多くのコンテナがルート権限で動作となっている。これにより、コンテナからホストシステムへの不正アクセスリスクが増大する。
- Docker イメージの信頼性問題
DockerHubなどの公開リポジトリから取得するDocker イメージの安全性が保証されない。また、悪意のあるイメージや脆弱性を含むイメージが混入するリスクがある。
実際に*1 近年では、*2 頒布されている脆弱性を含んだコンテナを使用してしまうことが脅威として認識されているようです。
*1. 2024年11月27日時点
*2. 参考:Dockerに緊急の脆弱性、ホスト環境が不正アクセスを受ける危険性
▼ エンジニアから見た、「コンテナ型 Dockerの特徴」を解説した記事はコチラ ↓
コンテナ型 Dockerの特徴 - クロジカテックブログ
Dockerの活用事例 ※マイクロサービスアーキテクチャにおける活用事例
以下ではDockerを活用してアプリケーション開発や運用を効率化した事例を紹介します。
Netflix
Netflixは、Dockerを使用してマイクロサービスアーキテクチャを構築しています。具体的には、Dockerによって、アプリケーションを小さなサービスに分割し、各サービスを独立して開発、デプロイ、実行しています。これにより、アプリケーションの開発と運用を効率化し、迅速化しています。
NetflixはDockerを提供からわずか2年足らずの2015年頃から導入し、Titusという独自のコンテナ管理システムを開発しました。Titusは、AWSのEC2上でDockerコンテナを大規模に運用するために設計されています。活用スケールも驚異的で、一時期には週に100万個以上のコンテナを立ち上げていました。
主な用途としては、ビデオストリームの準備(エンコーディング、チャンク分割など)や透かし入れなどのバッチ処理があります。また、最近では顧客向けのストリーミングサービスの一部もDockerコンテナで運用されるようになりました。
参考:The Evolution of Container Usage at Netflix
<Dockerの導入により、Netflixが享受したメリット>
・デプロイメント時間の大幅な短縮
・アプリケーションのスケーリングの効率化
・一貫した開発・テスト・本番環境の実現
以上が、Dockerの基本的な解説となります。Dockerは、既に多くの企業で採用されており、今後もますます普及していくことが予想されます。初心者の方は、まずは基本的な概念を理解し、徐々に実践的な使用方法を学んでいくことをおすすめします。
本記事で解説した内容を理解することで、Dockerに触れる前の前提となる基礎知識のご理解にお役立てくださると幸いです。実際の開発や運用でDockerを活用する際は、公式ドキュメントやチュートリアルも参考にしながら、段階的に学習を進めていくことを推奨いたします。
監修者:クロジカサーバー管理編集部
コーポレートサイト向けクラウドサーバーの構築・運用保守を行うサービス「クロジカサーバー管理」を提供。上場企業や大学、地方自治体など、セキュリティ対策を必要とするコーポレートサイトで250社以上の実績があります。当社の運用実績を踏まえたクラウドサーバー運用のノウハウをお届けします。
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