AWSを利用する上で、高可用性と耐障害性を確保するために重要な概念である「マルチAZ」について詳しく解説します。リージョンとの違いや構成例、メリット・デメリットまで幅広く取り上げ、AWSをより効果的に活用するための知識を提供します。
この記事でわかること
① AZ(アベイラビリティゾーン)とは
② リージョンとAZの関係性
③ シングルAZとマルチAZの違い
④ マルチAZ構成のメリット・デメリット
⑤ 一般的なマルチAZ構成のおおよその料金
⑥ マルチAZ構成を採用すべきかの判断軸
目次
AWSのAZ(アベイラビリティーゾーン)とはなに?
リージョンとアベイラビリティーゾーンについて
AWSは、世界中に分散したデータセンターを運用しており、これらのデータセンターは、リージョンとアベイラビリティーゾーンという2つの概念で構成されています。以下ではそれぞれの簡単な概念について見ていきましょう。
リージョンとは?
リージョンとは、AWSが世界中に展開しているデータセンターの地理的な集まりを指します。AWSは、世界中に*34のリージョンを展開しています。例えば、東京リージョンや米国東部(バージニア北部)リージョンなどがあります。
*リージョンの数は2024年10月30日時点の情報
各リージョンは完全に独立した環境として運用されており、あるリージョンで発生した障害が他のリージョンに影響を与えることはありません。また、リージョンの選択は、サービスの主要なユーザー基盤との距離や、法規制への準拠などを考慮して決定されることが一般的です。
各リージョンは、複数のアベイラビリティーゾーンで構成されています。
アベイラビリティーゾーン(AZ)とは?
アベイラビリティーゾーン(AZ)は、各リージョン内に存在する独立したデータセンターです。例えば、東京リージョンには複数のAZが存在し、それぞれが独自の電源設備、空調設備、ネットワーク接続を持っています。
これは、一つの施設で火災や停電などの障害が発生した場合でも、他の施設でサービスを継続できるようにするための設計です。実際の運用では、各AZは数十キロメートル程度離れた場所に設置されており、自然災害による同時被災のリスクを最小限に抑えています。
AWSにおけるリージョンとアベイラビリティーゾーンの関係性
リージョンとAZの関係は、都市と地区の関係に似ています。例えば、東京リージョンという大きな都市の中に、複数の独立した地区(AZ)が存在するイメージです。
【リージョンとAZの関係性】
- リージョンは、複数のアベイラビリティーゾーンで構成される
- アベイラビリティーゾーンは、リージョン内に物理的に独立して存在する
- リージョンは、地理的に分散しているため、災害や停電などの影響を受けにくい
- アベイラビリティーゾーンは、リージョン内でも物理的に独立しているため、互いに影響を与えない
シングルAZとマルチAZの違い
シングルAZ
シングルAZとは、AWSのサービスを単一のAZに配置することです。シングルAZ構成では、サービスは、1つのアベイラビリティーゾーン内の単一のデータセンターに配置されます。
マルチAZ
マルチAZとは、AWSのサービスを複数のAZに配置することです。マルチAZ構成では、サービスは、複数のアベイラビリティーゾーンに分散して配置されます。
マルチAZ構成のメリット・デメリット
メリット
マルチAZ構成には、以下のメリットがあります。
1. 業務継続性が高い(可用性、災害対策)
サービスが複数のAZに分散されているため、1つのAZがダウンしても、他のAZでサービスが稼働し続けることができます。また、当然ですが2つのリージョン(地域)を活用した場合は、1つのリージョンで運用する場合と比較して、さらに高いシステム稼働率が期待できます。なぜなら仮に1つのリージョンで災害や停電などの影響でサーバーダウンした場合も、もう一方のリージョンで稼働できる可能性があるためです。
2. データの冗長性
マルチAZ構成の*RDSを使用している場合、プライマリインスタンス(メインのサーバー)のデータは自動的にスタンバイインスタンス(予備のサーバー)に同期されます。そのため、障害発生時のデータ損失を最小限に抑えることができます。このようにデータが複数のAZに複製されるため、データの損失を防ぐ可能性を高めることができます。
*RDS:AWSの代表的なデータベースサービス
▼ AWSにおける冗長性の必要性を解説した記事はコチラ ↓
AWSの冗長化とその必要性をわかりやすく解説
3. 負荷分散によるパフォーマンスの向上
*Elastic Load Balancing(ELB)を使用することで、複数のAZに配置された*EC2インスタンスにトラフィックを適切に分散し、システム全体のパフォーマンスを向上させることができます。
*ELB:AWSのトラフィック(負荷)分散サービス
*EC2:AWSの代表的な仮想サーバー
デメリット
マルチAZ構成には、以下のデメリットがあります。
1. コストの増加
マルチAZ構成では、複数のデータセンターにシステムを配置するため、コストが増加します。具体的には、サーバーやデータベースなどのリソースを2倍以上用意する必要があり、それぞれの利用料金がかかります。
また、データセンター間の通信にも追加費用(通信料)が発生します。例えば、データベースをマルチAZ構成にすると、単一構成の1.5〜2倍程度のコストになることがあります。加えて、管理のための時間コストや人的コストへの影響も考えられます。
2. 複雑性の増加
マルチAZ構成では、複数のAZにまたがるリソースの整合性を保つ必要があり、設計・運用の両面で一定の技術力が求められます。特に、データベースの同期やセッション管理などには細心の注意が必要です。
AWSのマルチAZの料金は?
AWSのマルチAZの料金は、サービスによって異なります。前述したように一般的には、シングルAZ構成よりも、マルチAZ構成の方が料金が高くなります。しかし、マルチAZ構成は、高可用性、耐障害性、データの冗長性などのメリットをもたらすため、コストに見合う価値があると言えるでしょう。
ここでは、具体的な例として、東京リージョンでマルチAZ構成のEC2とRDSを運用する場合のおおよその月額コストを見てみましょう。
EC2 t3.micro(2台)
インスタンスクラス:t3.micro
インスタンス台数:2台
ストレージ:100GB
データ転送量:500GB
---------
合計:約15,400円
RDS t3.micro(マルチAZ)
インスタンスクラス:db.t3.micro
インスタンス台数:2台
AZ:マルチAZ
ストレージ:20GB
---------
合計:約13,300円
Application Load Balancer
台数:1台
LCU:2
---------
合計:約4,500円
このように、基本的なマルチAZ構成でも*月額33,000円程度のコストが発生します。
※月間10万PVほどのウェブサイトに適した環境を想定
※2024年11月5日時点のドル円換算
【活用法】マルチAZでの構成例
一般的なWebサーバーにおけるマルチAZ構成について、具体的な例を用いて説明します。
上記の構成では、以下のようなことが期待できます。
- 高可用性:1つのAZで障害が発生しても、他のAZでサービスを継続できます。
- 負荷分散:ELBがトラフィックを複数のEC2インスタンスに分散します。
- データの冗長性:RDSのマルチAZ構成により、データベースの可用性と耐障害性が向上します。
<補足>
スケーラビリティ:Auto Scaling Groupを使用することで、需要に応じてリソースを調整できます。
このようにマルチAZ構成を採用することで、単一障害点を排除し、システム全体の信頼性と可用性を大幅に向上させることができます。
マルチAZ構成の必要性と活用の判断軸
マルチAZ構成の必要性とは?
マルチAZ構成の必要性は、システムの重要度と要求される可用性レベルによって判断します。例えば、オンラインバンキングシステムでは、基本的に24時間365日の安定稼働が求められるため、マルチAZ構成が必須と言えるでしょう。一方、社内の開発環境など、短時間の停止が許容されるシステムでは、シングルAZ構成で十分な場合もあります。
【マルチAZ構成が推奨のケース】
・サービスのダウンタイムを許容できない場合
・災害や停電などの影響を受けやすい場合
・データの損失を許容できない場合
・負荷分散によりパフォーマンスを向上させたい場合
いかがでしたでしょうか。本記事では、AWSにおけるマルチAZの概要の解説から、マルチリージョンとの違いや構成例までご紹介してまいりました。
ご覧いただいたように、AWSのマルチAZ構成は、高可用性と耐障害性を実現する心強い手段です。一方で採用する際には、コスト(金銭、人的)と管理する際の複雑性のトレードオフを慎重に検討し、自社のニーズに合わせて適切に活用することが重要です。マルチAZ構成の導入を検討する際は、上記の判断軸を参考にしつつ、AWSの専門家に相談することをおすすめします。
監修者:クロジカサーバー管理編集部
コーポレートサイト向けクラウドサーバーの構築・運用保守を行うサービス「クロジカサーバー管理」を提供。上場企業や大学、地方自治体など、セキュリティ対策を必要とするコーポレートサイトで250社以上の実績があります。当社の運用実績を踏まえたクラウドサーバー運用のノウハウをお届けします。
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