「私は、選択肢があることそのものが大事だと考えています」
そう話すのは、株式会社ワイズ(以下、ワイズ)の代表取締役 早見さん。
ワイズは、脳梗塞・脳出血などの脳血管疾患後遺症に特化した、マンツーマンのリハビリ施設『脳梗塞リハビリセンター』を運営する会社です。退院後にリハビリを求める人に対して、その人に最適なリハビリサービスを提供しています。
ワイズが力を入れているのが、医療と介護の隙間を埋めること。社会保障制度だけでは対応が難しい、個々のさまざまな症状や人生の目標に合わせたリハビリ環境を提供することが、事業の目的のひとつです。
今回は、クロジカスケジュール管理のカスタマーインタビューとして、早見さんに起業を志された理由や、現在のリハビリの現場に見られる課題点、そしてそれを解決するための取り組みについてお話を聞きました。
IT業界を経て、リハビリ業界に挑戦
── はじめに、早見さんのご経歴を教えてください。
私は大学卒業してすぐにWebマーケティングの会社を設立しました。その会社を10年程続けた結果、ある程度の売り上げとそこそこの規模となり、IPOするかM&Aするか悩んだ末に、トランスコスモスという会社とM&Aしました。
その後は、その会社のインターネット部門の責任者と常務執行役員というポジションを10年程度務めました。そのため22歳から20年の間、IT畑でやってきた背景があります。
── 20年間 IT業界にいらっしゃった早見さんが、どうしてリハビリ事業を起業されたのですか?
移動が多くて忙しかったことが原因で、42歳の時にヘルニアになってしまいました。かなり状態が悪くて手術をしたのですが、腰の筋力が低下して歩行が厳しくなり、人生で初めてリハビリをすることになりました。
この頃、一時的に車椅子で生活をしていたのですが、リハビリを通してまた歩けるようになるという経験をしました。
20年ほどIT業界で経営に携わってやり切ったという気持ちを抱いたこと、そして歩けない人が歩けるようになる技術ってすごいなと思ったことがきっかけで、2014年にワイズを起業しました。入院しながら事業計画書を作っていました(笑)。
── ご自身がリハビリによって助けられた経験があったからこそ、新しい世界での起業に挑戦されることとなったのですね。起業後はどのように事業を展開されたのでしょうか?
初めは介護保険を使った小規模リハビリデイサービスという形でスタートしました。しかし実際にサービスをはじめてみると、脳梗塞になった40代〜50代の方がリハビリする場がなく、仕方なく高齢者が中心の施設に来ているという実態を知りました。
脳梗塞になった場合、医療保険が使える間は病院で手厚くフォローしてもらえますが、入院期間に制限があることに加え、退院してしまうとマンツーマンでリハビリする場所がなく、高齢者施設で集団リハビリをするしか手段がなかったのです。
高齢者向けのリハビリ施設はコンビニの数ほどあると言われていたので、私たちは脳梗塞の後遺症の方に向けて振り切った方がよいと思い、脳血管疾患後遺症に特化した自費のリハビリサービスを提供することにしました。
── 最初から脳血管疾患後遺症に特化していた訳ではなく、世の中のニーズを受けて変化していったのですね。貴社の事業内容を具体的に教えてください。
弊社は全国で14店舗ある、脳卒中に特化して、理学療法士や作業療法士などリハビリのスペシャリストによるパーソナルリハビリサービスを提供する会社です。
脳卒中のリハビリを病院やクリニックで受けられる期間は、状態によっても異なりますが診断を受けた日から最大で180日と定められています。この期間内で身体が元通りに近いほど動くようになる人は良いのですが、麻痺が残っていたり、改善が見られなかったりという方も多くいらっしゃいます。
例えば、「40歳で車椅子になってしまったけれど、仕事をしなければいけないから歩けるようになりたい」というような、180日間のリハビリでは足りないゴールがある人向けにリハビリサービスを提供しています。
リハビリで目指す、人それぞれのゴール
── 脳梗塞になった場合に、ご利用者様が実際に受けることになるリハビリの流れを教えてください。
脳卒中を起こした方は1〜2週間ほど急性期病院で治療を受けます。生きるか死ぬかの瀬戸際の場合も多く、容体が安定しないことからICUに入ったり、手術を受けたり、とにかく容体を安定させる期間になります。この間は、身体が固くならないような最低限のリハビリをベッド上で行うことがメインです。
この期間が終わると回復期病院に転院し、本格的なリハビリがスタートします。このリハビリを受けることができる期間は最大で180日です。この期間で良くなれば問題ないのですが、指を動かせなくなってしまったり、歩けなくなってしまったりで退院後も改善するためのリハビリを継続したいと考える方も多くいます。
しかし、自宅に戻ってもできるリハビリは限られていて、外来に月に4回通って週1回40分のリハビリを受けたり、 介護施設でグループリハビリを受けたりしている方が多くいらっしゃるのが現状です。
介護施設では、歩行トレーニングや認知症の予防などでリハビリを行っている高齢の人と、脳卒中になって職場復帰を目指しているという人が、同じ空間で同じプログラムをやっている場面を多く見てきました。どうしても改善ではなく「維持」が目的にならざるを得ないのが、介護保険の限界なのです。
── なぜ個々人に合わせてリハビリを行うことが重要なのでしょうか?
お客様によって目指すゴールが全然違うからですね。「リハビリ」と一口に言っても、どのようなゴールを目指すかは人それぞれです。
例えば、指がちょっと動かなくなっても普通の人だったら仕方ないで済むかもしれませんが、職業がピアニストの人であれば一大事です。その人の状態と状況によってもゴールが違ってきます。パーソナルはそのような人たちのためにあります。
『脳梗塞リハビリセンター』に来てくださるお客様は、エンジニアの方や、娘にお弁当作りたいお母さんの方、床屋さんや、 一級建築士の方など、若くて仕事をまだまだやっていきたいという30代、40代、50代の方が多くいらっしゃいます。
── パーソナルリハビリサービスとしての貴社の強み・魅力を教えてください。
日本で初めて脳梗塞に特化したパーソナルリハビリということで、データが蓄積されていることが1番の強みです。そのため、同じようなパターンがあると改善策がわかるのでお客様へのリターンも大きくなると思います。
── 貴社でのリハビリの流れを教えてください。
基本的には60日間の改善リハビリコースを提供しています。流れとしては、初回のリハビリの前に理学療法士らがカウンセリングを行って、それをもとにプログラムを組み、リハビリへと進めていきます。よく例としてお伝えするのは、子どもの夏期講習のような感じです。徹底的にできない教科を洗い出して、家でもやってきてくださいねということで、課題も出します。
そして2回目はこれができたから次はこれを、と改善を積み重ねていくプログラムを14回行います。なぜ14回かというと、リハビリは1回で改善するものではないからです。1回ではなかなか効果が出ないので、およそ週2回の通所と日々の宿題を60日間みっちり取り組んでもらいます。60日を1クールとして、目標のレベルを上げながら2、3クール続ける続ける方もいらっしゃいます。
カウンセリングシートを用いて「1カ月後、3カ月後、半年後にこうなるためには、こういうステップがあります」という説明を行い、ご本人の目標とそれに対してやることを全部書いたデータをお渡しできるのが当社の強みでもあるし、特徴でもあるのかなと思います。
次に目指すのは「IT×リハビリ」
── 貴社が掲げる「リハビリの『第3の選択肢』になる」という言葉に込められた想いを教えてください。
僕は、選択肢があることそのものが大事だと思っています。リハビリの選択肢として弊社のサービスがあった方が豊かな社会の実現になるんじゃないかなと思うからこそ、選択肢という言い方をしています。これはサービスなので、選択しないことを選ぶのももちろん自由です。
ただ、「もっと早く知ってればよかった」とか「知らなかった」という状況を少しでも減らせたらと思っています。もし知っていたら、もっと早く職場復帰できたという人もいるかもしれません。だからこそ、第3の選択肢があること自体を知ってもらえる環境づくりが大切だと思っています。
── 今後どのような会社にしていきたいですか?
コロナ禍以前は、「全国に店舗を作ります」とどんなメディアに言ってきましたが、今はITとリハビリを組み合わせる形で、もっと広げられないかなという思いに変わってきています。
リハビリを求めてる方がたくさんいるのは承知しているのですが、全国にたくさん箱を作るとコロナ禍のような状態になった時にあまりにも脆すぎるのです。ですので、方針を変えて行く必要がある時期なのかなと見直してきました。
「リハビリは触ってやった方がいいし、コミュニケーションを取りながらやるのでオンラインではちょっと難しいのではないか」というリハビリスタッフの声も、もちろんあります。
ですので、すべてのサービスをIT技術で代替するということではなく、例えば言語聴覚士によるリハビリは、お客様に触れる必要がないのでオンラインで可能です。パソコンやタブレットさえあれば自宅で受けられるリハビリコースの提供や歩行に特化して計測とアドバイスを提供するサービスも始めています。
── 直接会わなくてもできるリハビリはオンラインの方が、お客様にとっても利用しやすいですね。
そうですね。その他にもBtoB事業として、リハビリ製品開発コンサルティング、リハビリ施設コンサルティング、デジタルコンテンツサービス、リハビリ研修サービスも行っています。
弊社は全国にリハビリ施設を持っている分、リハビリ中の方との強い接点があります。ですのでリハビリ製品を作っている企業様とパートナーとなって、製品開発やプロモーションのサポートも行っています。
── 確かにリハビリ商品を作りたい時に、貴社の存在はとても心強いですね!個々人に合わせたリハビリ事業も、企業とのコラボ事業も、どちらも世の中に求められている事業だと思います。今回はありがとうございました。