「楽譜の品揃えに関しては、他ではあまり見られないくらいの充実度だと思います」
そう話すのは、アカデミア・ミュージック株式会社(以下、アカデミア・ミュージック)の代表取締役 佐久間さん。
アカデミア・ミュージックは国内最大級の輸入楽譜・音楽書の専門店で、1947年創業と歴史の長い企業です。18歳からこの業界に身を置く佐久間さんは、楽譜に関する多くのノウハウを持った経験豊かな方です。
伝統ある輸入楽譜店を守るため、そして楽譜の魅力を伝えるために、どのような努力をされてきたのでしょうか。今回は、クロジカスケジュール管理のカスタマーインタビューとして佐久間さんにお話を聞きました。
日本でも珍しい、輸入楽譜の専門店って?
── はじめに、貴社の事業内容を教えてください。
弊社は輸入楽譜の専門店として営業しており、輸入楽譜の販売を中心として、講座事業や出版事業など、さまざまな事業を行っています。
私たちは多くの楽譜をヨーロッパから取り寄せています。実は楽譜って、国や出版社によって微妙に異なっているのですよね。例えば、ベートーベンの曲でも楽譜によって演奏の指示が異なることがあります。クラシック音楽がヨーロッパ発祥であるため、ヨーロッパの楽譜が日本国内でも尊重されている傾向にあります。
国内にも多くの楽譜の出版社がありますが、演奏会などプロの方が関わる場合には、外国の楽譜、特にドイツなどの出版物が頻繁に使用されています。弊社はこのような特性を生かして、輸入楽譜の専門店として事業を展開しています。
── 貴社の創業からの歴史を教えてください。
創業は2世代前で、ヴィオラ奏者だった者が立ち上げました。最初は一般の方々への楽譜販売からスタートし、次第に音楽大学へと取引が広がっていきました。その後も紹介などでつながりが広がっていき、現在では全国の音楽大学や楽器屋さんとも取引しております。
── 長い年月の中で少しずつ取引先が増えていったのですね。創業者の方は海外の楽譜をどのように仕入れていたのですか?
創業者はもともと貿易会社に勤めていたので、その関係で仕入れの方法がある程度わかっていました。ただ、戦争が終わった当時は他国の出版社との直接のやり取りができないこともあったため、大使館を通して依頼していたそうです。
お客様からの楽譜のリクエストに応えたり、膨大な輸入の申請書類に対応したりと、当時はインターネットもないので相当大変だったみたいです。
── 佐久間様のこれまでのご経歴についてお聞かせください。
私の経歴はほとんどが弊社でのものです。働きながら学校に通わせてもらえるという約束があったため、18歳くらいからここで働いています。
そういった理由もあり、実は音楽に関しては正直あまり知らないんです。楽譜についてはもちろん詳しいのですが、音楽そのものには疎くて。他の社員は音楽大学や芸術大学を卒業した方が多いので、音楽に関しては彼らに聞いています。
── そうだったのですね!てっきり何か楽器をやられているのだと思っていました。18歳の頃から長く楽譜業界に携わっていらっしゃるのですね。
歴史が紡いだ、膨大なデータ
── 貴社の強み・魅力について教えてください。
品揃えに関しては、国内ではあまり見られないくらいの充実度だと思います。この充実度は、何十年もの経験が積み重ねられてきたからだと思っています。
弊社では古くから楽譜を収集しており機械の導入も早かったため、20万件以上の膨大なデータを蓄積することができました。データ蓄積については、図書館と協力してきた長い歴史があります。図書館は目録規則に基づいたデータの作成を行っており、これが弊社のデータ作成においても大いに生かされています。
── 膨大なデータは、貴社が積み重ねられた歴史そのものですね。
そうですね。蓄積したデータを利用して、出版社やテレビ局にも情報提供を行っています。その一環として、講座活動も行っており、特に原典版に関する講座では、多くの方々にお越しいただきました。
── まさに貴社ならではの大きな強みですね。現在、お客様はどのような方が多いですか?
学校関係が主要な取引先であり、音楽大学や芸術大学を含む全国の専門学校と取引をしています。音楽系の大学以外にも、例えば国立大学は音楽の部門が必ず存在するため、学校関連の取引先は全国的に広がります。
また学校関連以外にも、楽器店や音楽の専門図書館などとも取引を行っています。個人のお客様では、アマチュアの演奏家の方も多いです。他にも、楽譜コレクターの方が、CDを聞きながら楽譜を見たり、自筆譜の復刻版楽譜などを集めるために購入されます。
楽譜の魅力を、次世代へ…
── 次に、佐久間様にとって思い入れのある楽譜を紹介してください。
はい、非売品のものやなかなか手に入らない貴重なものなど、いろいろと持ってきました。
これはベートーヴェンの直筆の楽譜の原寸大の複製です。
── すごいですね!ベートーヴェンって、こんな字で楽譜を書いたんですね。
こちらはジャン・ド・モンシュニュのシャンソン集楽譜なのですが、ハート型という珍しい形をしています。
── 楽譜にこんなにバリエーションがあるとは知りませんでした!これはコレクションしたくなる気持ちもわかりますね。
ちなみに、書籍でいう中古本のような概念は楽譜にもあるんですか?
楽譜をコレクションされている方には高齢の方も多くて、亡くなる方もいらっしゃるんです。そういう方からの預かり物も販売できるように、古物商の許可もとっています。
── 最後に、今後どのような会社にしていきたいとお考えですか?
歴史を積み上げてきた会社なので、大きな変化は避けたいと思っています。本当に良質な楽譜を日本中の良い学校に普及させ、必要な方々に使っていただくことを継続していきたいです。また、手に入りにくくなった絶版の楽譜を古本として提供することも、もっと拡大していきたいですね。
そして、楽譜の良さを知っていただくために、さまざまな講座を増やしていきたいです。例えば、ピアノ教室などで教えている先生を集め、楽譜の解説や分析を交えて、楽譜をより理解しやすくする講座などです。これまで何回か行っていますが、応募者がたくさんいらっしゃり、需要があると感じています。その他にも、オンラインでの講座も検討しています。一般のユーザーを増やし、新しい顧客を獲得するためにも、ネットに力を入れたり、講座を通じて活動を広げていくつもりです。
── 貴社のことを知っている方々は楽譜の知識の拠り所として利用されているのではないでしょうか。歴史を守りながらも、新しいことにも挑戦していく姿勢は素敵ですね。
ありがとうございます。確かに、守らなければいけない部分が多いです。しかし経済的に生き残っていくためにも、新しいことにチャレンジしながら少しずつ進化していく予定です。
── 佐久間様のインタビューを通して、今まで知らなかった楽譜についての知識をたくさん知れてとても楽しかったです。次世代に楽譜の魅力を伝えていく貴社を、私も応援したいです!本日はありがとうございました。