「出版業界は右肩下がりと言われていますが、弊社が主に出版している単行本(紙書籍)の市場は以前より少し下がっている程度だととらえています。
ひとつのテーマについて、数百ページもの紙面で図やイラストも入れて説明し、深掘りできるのは、本の大きな魅力だと思います」
そう話すのは、総合法令出版株式会社(以下、総合法令出版)にて編集者を務める豊泉さん。総合法令出版の理念である「おもしろい、やさしい、ためになる」のもと、ビジネス書をはじめとした書籍の制作をされています。
読ませたいテーマやトピックをより多くの人に届けるために、本を作るのが編集者のお仕事。実際に売れる本、そして読まれる本とは、一体どのようにして生み出されるのでしょうか?
今回はクロジカスケジュール管理のカスタマーインタビューとして、編集者の豊泉さんにお話を伺いました。
武器は、さまざまな出版社で培った編集スキル
── まずは、貴社の事業内容を教えてください。
弊社は単行本の企画と制作、販売促進をメインに行っている商業出版の会社で、今までに1,800タイトルほどの書籍を出版しています。
創業当初はビジネス教育を行う事業がメインでして、その際に使用していたテキストの制作部門が弊社の原型と聞いています。そこが独立して出版事業メインの形態に変わり、それから30年ほどが経過しました。
もともとはビジネス書を中心に出版していたのですが、現在では実用書をはじめ、教育、社会学、あとは心理学関連の書籍なども扱っています。
── 豊泉さんが総合法令出版に入社されたきっかけを教えてください。
私は弊社に入社して5年ほど経過しますが、それまでに何度か転職をしています。社会人になって最初に小さな編集プロダクションに入り、ブライダル情報のムック誌と世界の一流品を紹介するムック誌の制作をしていました。それ以外にも、東京都内の飲食店をある夕刊紙に掲載する、その記事の取材・制作を担当していました。
その後、『◯◯ウォーカー』を制作している編集プロダクションに転職しまして、「夜遊びページ」というクラブやディスコ、飲食店などを毎週紹介するページを担当しました。
その編集プロダクションを退職し、そこからフリーライターとして夕刊紙の飲食店紹介記事を請け負いながら数年ほど過ごし、その後、PC関連の雑誌をメインに出版している出版社に入社して4、5年間ほどゲーム雑誌の編集をしていました。
それまではずっと雑誌ばかり作っていたのですが、その後に入社したいわゆる自費出版を手がける出版社にて、初めて単行本の制作に関わりました。しかし、この会社が倒産してしまい、次に紹介で入った出版社では、「一人出版社」のような形で、営業や経理関係などもほぼ一人でやっていました。そこを退職して総合法令出版に採用されたのが5年前です。
── 最初は雑誌で、その後単行本とジャンルはさまざまですが、ずっと編集業をされてきたのですね。どうして編集者の道を選ばれたのですか?
私は音楽が好きだったので、もともとは音楽雑誌の編集者になりたいと思っていました。なかでもある洋楽の月刊誌が好きで、その雑誌では読者投稿の音楽評論を載せているのですが、学生時代に読者投稿をしていたんです。自分で好きなアーティストや曲について原稿を書いて送り、採用されると雑誌に載ったので、それが嬉しかったですね。
その経験から、自分の伝えたいことや言いたいことをメディアで出したいなと思い始め、編集だったらそれができると思ったのが編集者を目指したきっかけです。当時はSNSなどありませんでした。就職活動ではタイミングなどもあり、音楽雑誌の出版社とは縁がなかったのですが、結果的に編集者としての道に進むことはできました。
より多くの人に伝えるために 編集者のお仕事とは?
── 一冊の本が読者の手に渡るまでに、編集者はどのようなお仕事をされているのですか?
例えば、この『だから、スターバックスはうまくいく。』を私は個人的に購入して拝読したのですが、この本はどのように作られたのですか?
『だから、スターバックスはうまくいく。』の場合ですと、スターバックスという会社は仕組みや効率の良さ、働く人の姿勢など、飲食業だけでなくさまざまな業界で働く人にも参考になるようなユニークな取り組みをしている、という側面に着目しています。
編集者はこのような内容や趣旨を、ターゲットとなる人に読ませたい、読んでもらえそうと考えて書籍の企画を立てます。そのときにテーマと中身の章立てを作り、その内容を書いていただけるような著者を探します。
ほかにも最初に著者ありきで、例えばビジネス系なら「○○さんというコンサルタントさんに、仕事が円滑に進む○○というメソッドのことを書いてほしい」と思ったら、企画立案して執筆を依頼することもあります。
企画が通ったら著者に打診して、引き受けていただけたら打ち合わせをして、構成案を相談しながら2、3カ月ほどかけて原稿を書いていただきます。原稿が来たら、それを編集者が誤字脱字がないか校正しながら文章の整理をしていきます。
その後、ページレイアウトをデザイナーさんと考えてゲラを作っていきます。それと同時にタイトルや装丁のデザイン案などを編集者が考えて、それを装丁のデザイナーさんにお願いします。
このように、本の内側と外側を同時に進行するのが主な流れです。企画の段階から本が出来上がるまでだいたい半年くらいかかります。
── 何もないところから企画して本を作るのはすごく大変そうですね。編集業を行っていて、どのような瞬間に嬉しいと感じますか?
仕事は大変ですし、売れないと会社的にも困るのでプレッシャーはあります。ですが、自分が作りたい本の企画が通れば本当に実現するので、そこは面白いですね。
── 本はWebの記事よりも作るのに時間がかかりますが、ひとつのテーマについて包括的に知れますし、深掘りもできる点がいいなと思います。
そうですね。今まで雑誌が担っていたような鮮度が重要な情報はWebのほうが強いのですが、本にも本ならではの魅力があると思います。
出版業界は右肩下がりと言われていますが、弊社が主に出版している単行本(紙書籍)の市場は以前より少し下がっている程度だととらえています。
ひとつのテーマについて、数百ページもの紙面で図やイラストも入れて説明し、深掘りできるのは、本の大きな魅力だと思います。
── 豊泉さんが編集者として意識していることを教えてください。
やはり伝わりやすさというか、どういう風に読者に伝えるかを意識していますね。タイトルにしても配色にしても、著者や編集者が「こういうことを伝えたい、わかってほしい」と言葉やデザインを選んで作っています。
── 内容も大事ですが、目的に合わせてどう見せるか、デザインも大事なのですね。
レイアウトや文字の大きさなどの誰が見ても読みやすいであろうベースみたいなものはありますが、そのなかでいかにその本らしさや著者が伝えたいことを出しつつ、読者が読みやすいようにするかを、手探りで回数を重ねながら経験を積んでいきます。
100点の答えが出ているかどうかはわからないのですが、本の場合は売上が指標になると思っています。「より多くの人に伝わっている=売れている」だと思って意識しています。
── 売れるために一番大きな要素は何ですか?
難しいですね。これは売れるだろうと思っていたら全然売れなくて、サクッと作った本が意外に売れたりということもあります。WebやSNSでも「なんでか分からないけれどバズった」とかありますよね。世の中の動きと何かリンクしたのか、こちらが意図していない別の要素なのか、さまざまな要因があるので、売れるかどうかは発売するまでなかなか読めないですね。
だからこそ、売れるように狙って作り、実際に売れた時はとても嬉しいのですが、その再現が私は苦手です…。何かの要因がうまくハマると売れるのだと思いますが、答えはひとつだけじゃないですね。よく「タイトルは命」と言われますが、私はそれだけではないように感じています。もちろん、タイトルは最重要ではありますが。
目指すのは「おもしろく、やさしく、ためになる」ビジネス書
── 貴社の強みや魅力を教えてください。
弊社は社名が堅いんですよね(笑)。「法令」なんてついているので、条文や法律などの専門書を扱っているのかと思いきや、実は日常に根ざしたようなわりとやわらかいテーマの本を出しているところが、強みでもあり弱みでもありますね。
社名の堅さにとらわれない、日常使いの本をたくさん打ち出しているところをもっと出していき、今以上に世間に広く浸透させていきたいです。
── 貴社の「おもしろい、やさしい、ためになる」に込められた思いを教えてください。
「おもしろい、やさしい、ためになる」は企画立案や本を制作するうえで、編集者をはじめとする制作陣は全員念頭に置いています。
特に私は「ためになる」本を出していこうとしているのですが、それを伝えるための「おもしろさ」、そして読みやすさという意味での「やさしさ」を追求することが大切だと思っています。
── 私の場合は、難しいビジネス書だと「教科書」という感じで、休日にわざわざ時間をとって「これは勉強だから大変でも頑張って読むぞ!」と覚悟して読んでいます(笑)。
ですが総合法令出版の本は、切り口が面白いし読みやすいので、仕事終わりで疲れている電車の中でも、スラスラ読めて内容が入ってくるところがすごいと思います。
読みやすさやとっつきやすさを狙っている本もあれば、そうでない本もありますが、基本的には「おもしろい、やさしい」という視点は常に念頭に置いています。それが「読みやすい」や「疲れない」と言ってくださる所につながっているとすれば、よかったです。
── 最後に、豊泉さんは貴社を今後どのような会社にしたいですか?
もともとビジネス書の出版から実用書、社会学、教育といったジャンルをどんどん広げてきましたが、弊社の理念にある「ためになる」本をさらに出版していけたらと思います。
会社として「総合法令出版の本はためになるな」というようなブランディングを行い、「おもしろくて、やさしくて、ためになる本を出している」と言われるような出版社になれたらいいなと思います。
── 本がスラスラとストレスなく読めるのは、編集者が裏で綿密に考えて作られているおかげなのがよくわかりました。今後、豊泉さんが編集を担当される書籍を心から楽しみにしています。