1,000年後も通用する、鉄製品と企業文化

「『将来はお父さんお母さんが働いているこの場所で働きたい!』と社員の子どもたちから言ってもらえる会社を作ることが、私の目標です」

そう話すのは、伊福精密株式会社 代表取締役の伊福さん。伊福精密株式会社は、切削加工技術と3Dプリンターでの金型レスのものづくりでお客様の困りごとを解決している製造業の会社です。伊福さんは、工場や作業場を街のアイコンにし、カラーを出して地域の人々に知ってもらうことが大事、と話します。

近年では「カルチャー」という言葉が一般的になり、それぞれの会社ならではの文化が重視される傾向にあります。ですが、実際に会社のカルチャーはどのようにして培われるものなのでしょうか?

今回はクロジカスケジュール管理のカスタマーインタビューです。伊福さんに企業文化の創り方、子どもたちが憧れる会社づくり、そして「1,000年先」に通用するものづくりの在り方についてお話を聞きました。

思いがけず職人の世界に足を踏み入れた20代

── まずはじめに、これまでの伊福さんのご経歴についてお聞きしたいです。

実は社長になった当初は、会社を継ぐことは全く考えていませんでした。

大学卒業後はゴルフの世界に進むためにアメリカに行くことにしていたのですが、出発の1週間前に父親が倒れて家業を継ぐことになったんです。なので他に就職したこともないですし、働きだしてからずっとこの会社なので、社長歴だけは長いですね。

父親が創業者だったので、小さい頃から工作機械とか鉄工所がずっと自分のそばにありました。いつか自分もこれに関わるんだろうなという思いはありましたが、学生時代はそこまで強い思いもなかったので、毎日ゴルフばかりしていましたね。

── 20代で社長になったということでプレッシャーも大きかったと思います。社長になってから金属加工はどのように学ばれたんですか?

昼間はお客様回りなどの業務があったので、夕方以降に一升瓶を抱えて父の友達の職人さんを訪ねて、お酒を注ぎながら工作機械の使い方を教えてもらいました(笑)。それを30歳手前まではほとんど毎日やっていましたね。

職人の世界は、常に最新の加工方法や工作機械の使い方をアップデートして使いこなす能力がないと指導ができません。今でもお客様に「社長が来てくれたら相談してその場で答えを出してくれるから話が早いね」って言っていただけるのが、すごいありがたいです。

自動車部品の加工から自社製品の製造へ

── 次に、貴社の事業内容についてお伺いしたいです。

もともとは自動車部品の試作開発をしていた加工屋でした。しかし20年ほど前から自動車部品はコンパクトなものが増えていき、既存メーカーでは対応できない量産品がポツポツ出てきたので、弊社も量産に取り組み始めました。

ですが、2008年のリーマンショックの影響で材料が入ってこなくなり、億近い費用をかけて購入した工作機械が全く稼働しなくなりました。そこから自動車部品だけではダメだということで、医療機械や半導体部品、航空宇宙関係の部品製造を行って今に至ります。

── もともとは試作開発をされていたんですね。自社製品を作るようになったのはいつからですか?

2016年から金属の3Dプリンターと呼ばれる設備を導入しました。きっかけは私が2012年くらいからドイツで学んだことを日本でビジネス展開しようと思ったことです。3Dプリンターを使用すれば材料が入ってこなくても、自分たちで製作してお客様に提供できます。

ただ、金属の3Dプリンターはこれまで前例のないことなので、企業向けにはなかなか広まらないという課題がありました。そこで、3DプリンターでBtoC向けの製品を製作しました。おちょこであったり、高野山の国宝級の仏像さんを8センチぐらいに縮小したものなどですね。

これにはスキャニングする技術も必要ですし、スキャニングデータの編集技術が必要となります。こうした技術を見てもらうきっかけ作りとしてBtoCに力を入れたことが、自社製品開発のスタートですね。

子どもから「働きたい」と言ってもらえる会社へ

── ホームページやX(旧Twitter)などを拝見しましたが、プロモーションにも力を入れているんですね。

若年層や女性の方にちょっとでも興味を持っていただければと思っています。弊社では女性のエンジニアも4割弱働いています。私たちはジェンダーレスを目指していますし、性別も国籍も関係ないと思っています。

アイディアがあって、いかに3Dを使ってお客様に利益を提供していけるかがこれから求められるスキルになります。「理系でないと駄目ですよね?」と就活生によく言われますが、弊社のエンジニアの7割は文系出身です。文系の人であっても、最低限のスキルはいつでも身につけることができます。

── 外国の方や女性も働きやすい環境なんですね!貴社のホームページはポップで明るい印象を受けました。テーマカラーのオレンジにはどのような意図があるのですか?

ドイツの工場って鮮やかなブルーにピンクのラインが入っていたり、ものすごい派手なんですよね。ドイツ人の経営者が言うには、町の経済的なアイコンとして企業が中心にならないといけない、ということだそうです。

ドイツでは「あのブルーの建物の工場で僕の家族が働いていて、私の夢はそこで働くことです」という学生がたくさんいます。会社名よりもまず「カラー」をつけないといけないというのが彼らの考え方なんです。

私たちも同じ考えで、展示会に行ってもオレンジのジャンパーを着たら「伊福さん来たな」と認識してもらえるので、本当に良かったと思います。仲の良い社長さんたちには、「ようこの京阪神地区でジャイアンツカラーにしたな」と言われますけどね(笑)。

「将来はお父さんお母さんが働いているこの場所で働きたい!」と一緒に働いている社員の子供たちから言ってもらえる会社を作ることが、私の目標であり野望です。

「あなただけの一品」を作る、 「金属加工の駆け込み寺」

── 続いて、伊福精密さんの強みや魅力をお伺いしたいです。

今までの加工は、大きなものから削っていってものを作っていくという「引き算」でした。それが3Dプリンターを使うことによって、「足し算」ができるようになりました。この両方ができるようになることで、お客様が一番ほしいものを提供できます。

だから私自身もお客様のデザイナーさんに「無理を言ってください」といつも言っています。お客様の無理を実現するのが僕らの仕事だと思っていますからね。

── 従来の技術と新しい技術の両方からアプローチできる、まさに「金属加工の駆け込み寺」ということですね。3Dプリンターだからこそできる技術とはどのようなものですか?

21世紀のものづくりは「パーソナライゼーション」と言われていて、3Dプリンターでは「あなただけの一品」が作り出せるようになっています。ですので、今後はカスタマイズのマーケットに注力して付加価値が高いところで戦っていくことが必要だと考えています。3Dプリンターと従来の機械加工の両立ができることが、より高い付加価値になると思っています。

── お客様から言われて嬉しかった言葉を教えていただきたいです。

今までできなかったことができた時に「ありがとう」と言われたことです。一番嬉しい「ありがとう」は、「今までできなかったけど、伊福さんと組んでできたね」と言われたときが最高のガッツポーズが出る瞬間です。

目指すのは、「1,000年先」に自慢できるものづくり集団

── 会社のポリシーについても教えていただきたいです。

僕らが考えているのは、「1,000年先」の子孫に渡せるものを作りたいということです。金属だと錆びて朽ち果てない限り残っていくと思うので、1,000年先の日本人に自慢できるものを作るということが弊社のポリシーです。

自動車の部品や飛行機の部品であっても、弊社のハンコを押して出荷された製品は、すべてにおいてそういう哲学で作られています。

── 1,000年先の人たちにも、手に取って感じることができるものを残せるものづくりは本当にかっこいいと感じます。最後になりますが、今後会社をどのようにしていきたいですか? 

今までの製造業という形にとらわれることなく、スタッフが中心となったものづくり集団になっていきたいです。量ではなく、質を維持しながら拡大をしていきたいと思います。スタッフが動きやすい組織を構成し、それをバックアップできる組織にしていくことが、社長としての私の次の課題です。

── 最後に何か伊福さんから伝えたいことはありますか?

少し宣伝させていただくと、11月3日〜4日に、GINZA SIXの蔦屋書店さんのポップアップストアで、私たちのおちょこや仏像といったプロダクトの展示・即売会をさせていただきます。これはBtoCを始めた時からの私の目標でした。このTSUTAYAさんでは日本刀が売られていて、1本4,300万円の日本刀が置いてあるんです。

日本刀って世界で最も優れた武器だと言われるくらい、実は工業技術の中でダントツで世界1位の領域なんです。僕は金属の仕事をしているので、日本人の製鉄技術をすごくリスペクトしています。

東京出張の際に日本刀を見ていて「いつかうちの製品をこれらの横に置きたい」と思っていました。その夢がついに叶うので、とても楽しみです。ぜひ実際に訪れて弊社のプロダクトをご覧ください!

── 私もぜひお伺いさせていただきます!製造業というとBtoBがメインで一般の私たちからすれば遠い存在であり難しそうなイメージでした。しかし個人のお客さんからのオーダーメイドの依頼にも対応している伊福精密さんは本当に親しみやすい存在だと感じます。本日はありがとうございました。