風を切って歩く喜びを届けたい

現在日本には盲導犬が何頭いるかご存じですか?

約840頭です。
この盲導犬たちは一体どこで産まれ、育ち、生涯をまっとうするのでしょうか。

今回はクロジカスケジュール管理のカスタマーインタビューです。視覚障がい者が盲導犬と共に自立した生活を営むことができるように支援する社会福祉法人 兵庫盲導犬協会様にお話を伺いました。

協会の活動の啓発、広報を担当されている濱名さんに、盲導犬の仕事内容やその生涯、また私たちが盲導犬および盲導犬ユーザーのために出来ることをお伺いしました。

視覚障がい者のスムーズな日常生活をサポートする

── まず貴協会の事業内容について教えてください。

当協会の事業内容は大きく分けて5つです。①盲導犬候補の繁殖、②育成、③訓練、④視覚障がい者への無償貸与とフォローアップ、⑤啓発活動を行っています。

盲導犬を貸与することで視覚障害を持つ方々の社会参加や自立を促し、その方々のQOLを上げることを目的としています。盲導犬事業により、誰もが住みやすい社会をつくっていくことを目指しています。

── 濱名様のご経歴と現在担当されているお仕事についてお伺いしたいです。

大学で障がい者児童の運動教育について学んだこともあり、卒業後は知的障害や身体障害を持つ子どもたちの運動機能改善のサポートをする仕事に就きました。その仕事をしている時に、視覚障害と知的障害を重複して持っている子どもに出会ったのです。しかし視覚障害に対して事業所としては受け入れることも何も出来ず、そのことを悔しく感じていました。

その後、現在勤めている兵庫盲導犬協会に出会い、盲導犬の啓発、学校公演やイベント開催、募金活動を行っています。

── 大学時代から福祉について学ばれていたんですね。どうして福祉の道に進もうと思われたのですか?

私には3つ下の弟がおり、知的障害と軽い自閉症の症状もあったのですが、彼が運動が苦手なことが気になっていました。そこで調べてみた時に、運動機能が生まれつき低いケースもあることが分かったのです。些細なことでも怪我をしてしまう事があったので、そういった子どもたちの運動機能向上の一助になれればと思ったことがきっかけで、障がい者児童の運動教育について学ぶことにしました。

── 濱名様の中には、障害を持った方により良い日常を送ってもらいたいという願いがあるのですね。

盲導犬がいることで、できることが広がる

── 盲導犬のお仕事について教えていただけますか?

「コンビニまで行って」と盲導犬に言ったらコンビニまで連れて行ってくれるナビのようにイメージされている方が多いかと思います。

しかし盲導犬のサポートは簡単に言うと①まっすぐ歩く②段差、曲がり角で止まって教える③障害物を避けて歩く④ドア、イスなどの目的物を探す ということなのです。

── そうなんですね!ちなみに、盲導犬が指示に従わないこともありますか?

例えば駅のホームを歩いている時に、このまま真っすぐ進んでいくと落ちてしまうという状況では、犬はユーザーの指示に従わずその場から動きません。犬が「危険だ!」と判断したら、わざと人間の言う事を聞かず、安全を優先することがあります。

指示に従うことと、危険を察知して指示に従わないことの両方を駆使しているのです。

── 「指示に従わない」というのもサポートの一つなのですね!盲導犬がいることで、視覚障がい者の方の日常生活はどのように向上するのでしょうか?

まず盲導犬が目で見て障害物を避けて歩いてくれるので、ユーザーもスムーズに動けるようになります。盲導犬がいることで、ユーザーの行動できる範囲が大幅に広がるのですよ。

私たちは初めての場所でも、何も考えずにドアを見つけることが出来ますよね。それはドアの形を知っていて、目で見ることが出来るからです。でも視覚障がい者の方は、ドアがどこにあるのかがわかりません。白杖を使っている方は、「ドアを探す」ことから始める必要があります。

でも盲導犬に「ドア」と指示を与えると、ドアの前まで連れて行ってくれるのです。ユーザーは盲導犬と暮らすことで情報量が増えます。情報量が増えるということは、出来ることが増えるということです。盲導犬がいることで一人で自由に外に出ることができるので、視覚障がい者の方の社会参加と自立に繋がると思います。

盲導犬の一生を支える協会とボランティア

── 盲導犬の一生について教えていただけますか?

当協会ではお父さん犬とお母さん犬のマッチング、交配から出産まで行っています。

生後2ヶ月間は当協会やベビーシッターボランティアさんがサポートしながら、お母さん犬や兄弟犬と一緒に過ごします。

2ヶ月経つとお母さん犬のもとから離れて、子犬と一緒に生活してくれるパピーウォーカーボランティアさんのお家に1頭ずつ委託します。そして1歳になる頃に当協会に帰ってきてもらいます。

── 生後2ヶ月はお母さん犬と一緒にいて、それから1歳になるまでは人間と暮らすんですね。どうしてこの期間が必要なんですか?

2ヶ月までは犬世界のマナーや常識を、そして2ヶ月から1歳までの間は人間社会のリズムやマナーを勉強するのです。

── なるほど!そういう意味があるんですね。

人間生活のリズムやマナーを、パピーウォーカーさんのお家で勉強します。1歳になる頃に協会に帰ってきてから盲導犬としての訓練が始まり、当協会では平均1年から1年半ほど訓練を行い、盲導犬として向いている子がデビューします。盲導犬に向いてないなと思われた子は、キャリアチェンジとして一般のご家庭にお譲りします。

盲導犬としてデビューをしたら8歳から10歳くらいまで働き、その後は引退に向けて動いていきます。引退後は、リタイア犬受け入れボランティアさんのお家にお譲りをさせていただき、そのお家で一生をまっとうします。

── 貴協会やたくさんのボランティアさんたちのサポートがあるんですね。

私たちが盲導犬・盲導犬ユーザーのためにできること

── もし街中で盲導犬ユーザーを見かけたら、わたしたちはどのようなサポートが出来るのでしょうか?

もし盲導犬ユーザーが歩いているのを見かけた時は、基本的には温かく見守ってください。

盲導犬は盲導犬ユーザーの指示に従って動いています。指示を聞いて歩いている時に、まわりから「頑張ってるね!」などと声をかけてしまうと、人懐っこい盲導犬は指示を忘れて喜んでしまうかもしれません。盲導犬とユーザーの安全のためにも、基本的に温かく見守ってもらえたらと思います。

逆に声をかけてもらいたい時もあります。それは盲導犬ユーザー様が危険な状況の時です。
当協会の盲導犬は左側歩行をしています。左手でハーネスを持って、道の左側を歩くのです。

(※歩行環境によって盲導犬が右側につき、右手にハーネスを持ち替えて歩行している盲導犬協会もあります)

例えば道を想像すると車道側に人間がいて、歩道側に犬がいるという感じですね。

しかし盲導犬ユーザーは歩道の左側を歩いてるつもりだったのに、気づかないうちに右側に出てきてしまって、中央分離帯の横を歩いていたということも実際にある話です。駅のホームのふちギリギリを歩いていることもあるかもしれません。

ですので普段歩かないような場所や危険な場所を歩いている方がいたら「盲導犬の方、そこは危ないですよ!」と声をかけてもらえたらと思います。この一言で事故を防ぐことが出来ます。

── 左側に盲導犬がる時は左側歩行、右側に盲導犬がいる時は右側歩行ですね。ひとつ知識を持っているだけでも役に立ちそうです。

それからもしご協力いただけましたら、口コミやSNS投稿などで協会の活動を広めていただけると嬉しいです。

1頭の盲導犬が産まれてユーザー様の元に届けるまでに、500万円ほどかかります。国家公安委員会に認定された施設だけが盲導犬を育て、ユーザー様に貸与することが出来るのですが、国からの支援は特にありません。
口コミやSNS投稿により盲導犬の認知度を高めていただいたり、各協会のグッズ購入やクラウドファンディングを通して、可能なご支援をしていただけたらと思います。

「盲導犬がいることで風を切って歩くことが出来た」

── 盲導犬ユーザーに言われて嬉しかった言葉はありますか?

「盲導犬と歩くことで風を切って歩くことが出来た」と涙ぐみながらお話しされる方がいました。

その方はもともと視力があったのですが、病状が進行してほとんど何も見えなくなってしまったのです。歩くのが怖くなってきた時に盲導犬との体験歩行をされて、「久しぶりに普通に歩くことが出来た」と涙ぐみながらお話ししてくださった時は、私も泣きそうになりました。

その言葉を聞いて、障害を持つ多くの方に盲導犬と歩く喜びを届けたいと、より強く思いました。

もう一つ、言われて嬉しかったとは少し違うのですが、胸にグッと来た言葉があります。

盲導犬には引退があり、引退するとユーザーのお家から離れないといけません。あるユーザーから言われた「頭では分かっているけど、引退の日に迎えに来た協会の職員が憎くなった」という言葉には胸が締め付けられました。

ユーザーにとって大切な家族である盲導犬を迎えに来てしまうのです。8年間一緒に暮らした子が協会職員に連れられて行く。その音が遠ざかっていくのを聞いて、悔しいような、寂しいような、でも仕方がないという決心をつけていたという言葉を聞いた時は胸に来ましたね。それほど、盲導犬がユーザーにとってかけがえのない存在になっていたのだと思います。

誰もが住みやすい社会に

── 最後に、貴協会の活動を通して世の中にどのような影響があってほしいと思いますか?

日本に盲導犬は何頭いるかご存じですか?836頭です。この数は欧米に比べると非常に少ないです。講演やイベント等の活動を別にすると、盲導犬を実際に見たことがないという方がほとんどだと思います。

当協会が目指しているのは、盲導犬ならびに補助犬(盲導犬・聴導犬・介助犬の総称)が世の中に参加しても普通に受け入れてもらえる社会です。視覚障害・聴覚障害・肢体障害のある方がより気軽に補助犬を持ち、社会に参加していける環境を作っていけたらと思います。

ヨーロッパでは8,000頭から10,000頭、アメリカでは15,000頭から20,000頭の盲導犬がいると言われています。障がいや困難をサポートしてくれるアシスタントドッグ(補助犬)がいるのが当たり前な社会なのです。

アメリカでは犬に限らず、サポートアニマルが人間と一緒に暮らして、人間に益をもたらしてくれるという考え方が浸透しています。日本でも、補助犬を当たり前に受け入れる考え方や体制が広まってくれたら嬉しいなと思います。

そして私たち協会としても盲導犬たちが健康で満足していられるように、人にも犬にも幸せが訪れるような団体を引き続き目指していきたいと思います。応援していただけたら嬉しいです。

── 視覚障がいを持つ方を盲導犬が日々サポートしていることや、その盲導犬の一生を支援する協会やボランティアさんの存在について知ることが出来ました。障がいや、盲導犬を含む補助犬についての理解を深めて、他人事ではなく自分事として捉えて考えるきっかけになりました。本日はありがとうございました。