社内外のコミュニケーション問題は、どのような企業でも抱く悩みのタネ。特に、言語や文化のバックグラウンド、ビジネス習慣などが異なる社員が働く、グローバル企業ならなおさらのこと。世の中の企業は、この課題をどのように解決しているのでしょうか。
この度インタビューを行った、株式会社USTソリューション 代表取締役の呂さんは中国出身。大学卒業後にアクセンチュアに勤務し、その後、日本で会社を設立したという経歴を持ちます。クロジカ請求管理のカスタマー様です。
呂さんの会社では、WEB系システム開発や、経営資源を一元に管理して企業全体の最適化するERPソリューション、顧客情報や行動履歴、顧客との関係性などを管理するCRMソリューション、Electronic Commerce(電子商取引)事業を中心に展開しています。
中国をはじめとしたさまざまな国出身の社員を抱える呂さんが、会社経営で大切にしていることは、「人と人との繋がり」、そして従業員の働き方における「ゆるさ」と「あつさ」の共存でした。
今回は異国の地で起業し、多くのグローバル人材を社員に抱える呂さんに、文化背景が異なる社員たちが楽しく働ける組織づくりについてお話を聞きました。
起業のきっかけは、日本のIT人材不足
── まずは、呂さんのご経歴を教えてください。
呂さん(以下、敬称略):私は中国出身です。大連の大学で3年間日本語を勉強し、卒業後は中国のアクセンチュアにブリッジSEとして入社し、日本向けのIT関連の仕事やITコンサルティングなどの業務を行っていました。
その際に出張でときどき日本に来ており、大阪の土地に魅力を感じました。2016年にアクセンチュアを退職して大阪に移動し、日本の会社でITエンジニアとして1年半ほど働いていました。
── どうして中国ではなく、日本で会社を立ち上げることになったのですか?
呂:日本で働き始めた際、日本はITの人材が圧倒的に不足していると感じました。当時、参加していた現場では「人が足りないので誰か紹介してくれませんか?」とか「御社にはJAVAの技術者がいらっしゃいますか?」という声がよく上がっていたのです。
その際、中国大連で作った人脈をもとに技術者を紹介していまして…。1年が経過した頃には10人を超える人材紹介の実績ができていました。そこで、「会社を立ち上げられるかもしれない」と考え、思い切って会社を辞めて2017年8月にUSTソリューションを立ち上げました。
── USTソリューションの事業内容について教えてください。
呂:弊社には3つの事業内容がございます。
1つ目は業務システムの開発です。例えば不動産業界の営業用のシステムやバックオフィス用のシステムを開発しております。使っている言語はC#.NET系をメインに開発に携わっております。
2つ目はERPソリューション事業部です。ERPソフトウェア世界トップシェアのドイツのSAP製品の導入から運用保守までをやっております。弊社には中国籍や日本籍のコンサルタントが在籍しており、SAPの独自開発、ABAPの開発者も多数おります。3つ目は自社製品の企画と開発をしております。
── 今はどのくらい社員さんがいらっしゃるのですか?
呂:正社員が50名、協力会社のビジネスパートナーが40名程度いらっしゃるので、トータル90名くらい稼働しています。
グローバル人材の確保が最大の強み
── 続いて、USTソリューションの強みについてお伺いしたいです。
呂:関西に拠点を持つERPソリューション事業会社として、中国系の会社で一番エンジニアの人数が多いことが強みです。社内の2割は中国籍のメンバーで、中国語はもちろん日本語と英語を話せること、そして高い技術力を有しています。
特にSAPというのはグローバルな製品であり、また大手企業が導入する時に日本国内の拠点だけにとどまらず、海外の支社に提供できることがもうひとつの強みですね。
── グローバル人材が確保できていることは大きな強みですよね。日本ではエンジニアが不足していますが、どのように経験のあるエンジニアの採用をされるのですか?
呂:中国大連の工業地区では、日本の子会社で開発経験を積んだ人が多くいます。そのような方を知人経由で紹介していただいて採用しています。また、現地の人材紹介の会社を利用して、5年以上の開発経験を持つ人にオファーを出すこともありますね。そういった人達は日本での留学や仕事の経験があったりします。
── 呂さんが中国のバックグラウンドを持たれているからこそ、採用面でも強みが発揮されているのですね!
大切にしているのは「人と人のつながり」
── USTソリューションでは自社製品の企画開発にも力を入れておられますね。プロダクトのひとつ、INFANY(インファニー)の企画開発にあたってどういう経緯があったんでしょうか?
呂:INFANYは業務知識やノウハウを組織全体で共有・蓄積することを目的としたナレッジ共有システムです。INFANYは受託案件につなげることだけが目的ではなく、社員の帰属意識を改善したいというのが開発を行った大きな理由です。
会社を立ち上げてからはずっと派遣のような感じで、案件があればエンジニアを提案する形だったので皆バラバラに仕事をしていました。会社のメンバーと比べて現場の担当者やスタッフとのほうが仲が良く、会社とエンジニア双方のコミュニケーションが取れていない状況でした。
USTソリューションの目標は受託案件と自社製品の開発がメインの会社になることだったので、SESの会社にはなりたくなかったのです。そうなれば社内の開発の作業を増やす必要がある、というところからINFANYという製品を企画しました。
社内の最近のニュースや新入社員の情報、会社の新しい福利制度、月末の書類の提出などをすべてINFANYから発信して、皆がリアクションすることができます。
またINFANYはTeamsやSlackと繋がっており、INFANY上で発信するとSlackのグループにも自動のメッセージも出てくるので、会社と社員がリアルタイムでコミュニケーションが取れるようになっています。
── 社内の開発作業を増やし、社内のコミュニケーションを円滑にするために作られたのですね。社員の方の帰属意識を高めるために作られた、というところがすごく面白いです。
呂:INFANYのおかげで弊社にはチームワークというカルチャーが根付いたと思います。IT業界はエンジニアの巣立ちや中途採用が難しい業界です。この課題を解決するために弊社では色んなカリキュラムを作っております。
例えばSAPの勉強資料、C#やJAVAの勉強資料を作成し、日本での留学生や新卒の新入社員にはそれで勉強してもらっています。また弊社では転職の方も募集しております。元々違う業界で働いていたけれど、これからIT業界で挑戦したいというメンバーも未経験として入社してもらいます。
── 未経験の方も採用されてるんですね!
呂:はい。弊社のメンバーが作業の合間に新人を教育してくれています。チームワーク精神や、お互いに協力しないと今の状況にはならないと思います。これこそが弊社が誇れるカルチャーかなと思っています。
「ゆるさ」と「あつさ」の共存が人を育てる
── 企業理念として掲げておられる『ゆるく、でも、あつく』という言葉にはどんな想いが込められていますか?「ゆるく」という言葉を使う会社は珍しいと思うのですが。
呂:弊社は新卒や未経験者を採用するので、まずは「ゆるさ」と「リラックス感」を感じてほしいと思っています。即戦力として案件に参加してもらうのではなく、まずは社内で少なくとも3ヶ月から半年ほど先輩をフォローする形で入ってもらいます。
そこから少しずつ案件に導入する形をとっています。リラックスした雰囲気のなか、楽しくコミュニケーションを取りながら仕事をしてほしいです。そして案件に入ってからは経験者として「あつく」お客さんを大事にして、かつ新人をフォローしてもらいたいと思っています。
── ゆるさとあつさが共存しているから、リラックスした雰囲気が社内に流れているんですね。これまでお客様やメンバーの方に言われて嬉しかった言葉はありますか?
呂:お客様から「高い技術力を持っている」と言われたのは嬉しかったです!未経験で入社した社員からは「育ててくれてありがとうございます」ということを言われることもあります。他には「自分の努力や貢献が認められて嬉しい」という言葉をいただくことがあり、とても嬉しいですね。
── お客様や社員との間でとても良いコミュニケーションを取られてますよね。グローバルな社内で働きやすい雰囲気を作るために工夫されていることはありますか?
呂:まず、日本の文化と海外の文化は違うところがある、ということを理解する必要があります。日本のサラリーマンはちょっと堅いイメージがありますが、外国のエンジニアはほとんどカジュアルなんです。服に制限を設けないことで、働きやすくなると思います。
あとは冷蔵庫に軽食を準備しているので、疲れた時とか打ち合わせする時に食べてもらっています。またオンラインでもかまわないので、月に1回ほど軽い雰囲気でみんながコミュニケーションを取れる場を設けるようにしています。
── 弊社も参考にさせていただきたいと思います!最後に「こういう会社にしていきたい」という展望を教えていただきたいです。
呂:イノベーションとテクノロジーの会社になりたいです。派遣ではなく自社の技術力を持ち、受託案件と自社の製品を提供していきたいです。新しいテクノロジーに対してイノベーションを推進していきたいと思っています。自社開発した製品を多くのユーザーに役立ててもらえたら嬉しいですね。
── お話を伺って、これまでの呂さんの中国や日本での経験がUSTソリューションの強みにつながっているのだなと感じました。ただ優秀な人材を派遣するのではなく、お客様そしてメンバー同士のコミュニケーションを大切にし、新人・未経験者を育成することに労力を惜しまない。人と人の繋がりを大切にすることを我々も見習っていければなと思います。