「『人類の進歩に貢献する』という気概を持つこと、そして『それを真面目に言えるか』まで大切にしています」
そう話すのは、モバイル・インターネットキャピタル株式会社(以下、モバイル・インターネットキャピタル)代表取締役社長・マネージングパートナーの元木さんです。
モバイル・インターネットキャピタルは、1999年創業のベンチャーキャピタル(以下、VC)で、IT領域を中心とするテクノロジーまたはユニークなビジネスモデルを有するスタートアップに投資しています。弊社TOWN株式会社にも投資していただいています。
創業から25年という長きに渡り、スタートアップへの支援を行っているモバイル・インターネットキャピタルは、どのようなポイントに注目して投資を行っているのでしょうか?今回は、元木さんにベンチャーキャピタリストとして重視している価値観や、目指す未来についてお聞きしました。
0から10まで伴走支援できる、VCの魅力
── 元木さんの現在のご担当業務と、これまでのご経歴を教えてください。
モバイル・インターネットキャピタル株式会社はVCで、スタートアップ企業に投資し、伴走支援を行っています。私はその投資部門のヘッドをしています。
弊社に入社する前は、知的財産のコンサルティングを行っていました。市場調査をしたり、お客様と一緒に戦略を考えたりするということが主な業務でしたね。テック系のビジネスでは知的財産はとても重要になるので、これまでの経験から知的財産のノウハウを活かすことを期待していただき、2011年に入社しました。
── なぜVCで働きたいと思ったのですか?
企業の運営全体に関わる仕事をしたいと思ったからです。コンサルタント業務ですと、例えば0から10まで企業の運営業務があるとすれば、その中の4と5だけと、特定の領域の業務に特化して関わることになります。
複数の企業に関われること自体は楽しいので、それを保ったまま0から10まで企業運営に関われる仕事って何だろうと考えたところ、VCならそれが叶えられると思ったのがきっかけでしたね。
── 企業が生まれてから成長していく過程を、知的財産の観点で伴走することが元木さんの得意分野なのですね。
そうですね。できたばかりの企業ってまだ資産は少なく、人のナレッジしかないじゃないですか。ですので、まずはそのナレッジを権利化して知的財産にすることから始めています。そこから企業の動きが加速し始めて、人が集まってビジネスが出来上がっていく工程を楽しみながら、企業に伴走しています。
重視するのは「誠実性」
── 貴社の強み・特徴を教えてください。
25年続く、老舗のデジタルテック領域のVCであるという点が、弊社の特徴ですね。弊社は1999年の創業当時からデジタルテック領域に特化しています。当時はまだ領域特化型のVCは少なかったですね。
25年も続けているので、さまざまなスタートアップ企業を見てきたということも1つの大きな強みです。また、技術への専門知識があり、知的財産的な支援をすることができますので、これらを活かしながら事業に取り組んでいることも大きな強みです。
── 投資を判断する際に、重視するポイントを教えてください。
企業によって業態やステージも異なりますので、見るポイントも企業ごとに違ってくるのは大前提になるのですが、やはり「人」を非常に重視しますね。
── どのような人が、投資する上で望ましいとお考えでしょうか?
とにかく、嘘をつかない人ですね。誠実性を重視しています。誠実に対応いただけるかどうかは、さまざまな質問をさせていただく中で回答を聞いているとわかるんですよね。
やっぱり、話をごまかす人って居るじゃないですか。わからないものはわからないと言ってくれれば良いのですが、わからないこともわかっているような素振りで話をされてしまうと、直感的に感じ取れるのですよね。
── やはり、人となりが会社にも現れたりするのでしょうか?
事業にきちんと向き合っているかどうかという点では、少なくとも現れますね。
スタートアップでよくありがちなのは、とにかく新しいことを始めたがることです。まずAという事業で収益を上げてお金を集めて事業を進めていくのがセオリーですよね。雲行きが怪しくなってきたり数字がついてこなくなったりした際、本来ならAの事業に向き合うべきです。なのに、Aと向き合うことをせずにやめてしまい、次はBという事業を立ち上げるんですよ。このようなパターンで結果的に悪い方向に転ぶケースが多いですね。
VCとして、人類の進歩に貢献する
── VCで働かれていて、やりがいを感じる時や、嬉しい時について教えてください。
VCって、スタートアップ企業に投資をしてからずっと支援が続くじゃないですか。長いもので10年、短いものだと5年くらいになるのですが。基本的にその間、キャピタリストはずっと苦しいです(笑)。やはり企業というものには常に何らかの課題があるので、それを解決していかなくてはいけない。課題というのは、楽しいものではないので、基本的にずっと苦しいですね。
ですが、さまざまな壁を乗り越えて、最後にIPO(新規上場)をする時は本当に大きな喜びがありますね。IPO自体はすぐに終わってしまいますが、IPOの祝賀パーティーに参加させていただくときなど、振り返るタイミングが必ずあります。
そこで起業家との信頼関係を改めて確かめられたり、「こんなことありましたね」と思い返してしんみりするシーンがあったりして…。その瞬間に感じるやりがいは本当に大きいですね。
── 基本的にずっと苦しいとのことですが(笑)、なかでも特につらいのはどのような時ですか?
自分の実力に対して、課題が山盛りの案件が何件も重なってしまっているときですね。とにかく1つずつ解決して、どうにかしていくしかないのですが。
例えば、投資した3億円が全額損することになるのか、少しでも回収できるのか、さらにはもっと回収できる道はあるのかということを検討していかないといけないということも起きるのですが、それが複数件同時に起こると本当に胃が痛くなりますね。
── 元木様がVC人生で大切にしていることは何ですか?
「人類の進歩に貢献する」という気概を持つこと、そして「それを真面目に言えるか」まで大切にしています。
私たちVCが取り組んでいる日々の業務は、何かしら人類の進歩への貢献につながっています。なぜなら、私たちがスタートアップ企業を応援して伴走することで企業が成長し、社会に新たな価値が生まれるからです。自分のやっている一つひとつのことは、人類の進歩に貢献していることなんだ」という思いを大切に僕は日々取り組んでいて、それを社内のメンバーにも共有しています。
なので、まず最初のマインドセットは「人類の進歩に貢献する」という気概を持っていること。それを実現するために、誠実にスタートアップに伴走すること。その目線で日々取り組むことを大切にしています。
VCとして、目指す未来とは?
── 今後、貴社をどのような会社にしていきたいですか?
シンプルに、人類の進歩にしっかりと貢献できる会社にしていきたい、社会に貢献できる会社にしていきたいと思っています。
しかし、今後は私たちのVCとしての定義をアップデートをするべきタイミングは来ると思っていまして。単に投資をして、EXITをして、投資回収するというモデルは一つ重要な形ではあるのですが、それ以外の価値をどう打ち出して、どのように人類の進歩や社会に貢献していくかということを、これから取り組んでいきたいと考えています。
── 今後の取り組みについて考えていることがありましたら、教えてください。
日本の産業をさらにアップデートしていくには、スタートアップと大企業の連携は必須だと考えています。よくオープンイノベーションという言葉が使われますが、この言葉はもう20年以上使われています。ということは、つまりオープンイノベーションはまだ十分に進んでいないということです。ですので、オープンイノベーションの進展に貢献できるVCでもありたいと考えています。
具体的には、スタートアップと大企業を連携することによって、より一層価値のあるイノベーションを生み出し、投資・回収をして投資家に対してお返しすることはもちろん、イノベーションという文脈でもさらに人類の進歩に貢献できるような構図を作っていきたいですね。
── 最後に、なぜ弊社に出資しようと思ったのかをお聞かせください。
今まで自己資本で経営をされてきたなかで、外部資本を入れてIPOを行っていくという意思決定をされたというところが評価に値すると言いますか、リスペクトを感じるところがありました。
はじめに貴社に対してデューデリジェンス(適正評価手続き)をしましたが、そのなかで見えてきたものとして、今まで築いてきたアセットをより広げていくべきだと感じたので、投資をすることにしました。
── 元木さんのお話を伺って、「私たちも人類の進歩に貢献できるビジネスをしていかなくては」とより一層強く感じました。身の引き締まる思いです。本日はありがとうございました。