「エンターテインメントはなくても困らないが、あった方が豊かになる。それをどうやって守っていくかが大事」と話すのは、株式会社ノワ(以下、ノワ)の代表取締役社長 菊池さん。
ノワは、サブカルチャーの聖地・高円寺にて事業展開をする会社で、音響制作を中心としてIP(著作権)の企画制作、映像制作、ウェブラジオ制作、スタジオ運営、声優イベント事業などを行っています。
「人とのつながりがチカラ」を理念に掲げるノワ。実際に、菊池さんはノワの代表取締役社長に至るまで、たくさんの人との縁があってキャリアを伸ばし、エンターテインメントの業界で活躍されています。
人の縁は事業にどのように活かされていくのでしょうか。そして、エンターテインメントを守り、発展させていく上でどのような事業を行っているのでしょうか。今回は、クロジカスケジュール管理のカスタマーインタビューとして、菊池さんにお話を伺いました。
人の縁を大切にし、積んできたキャリア
── まずは、菊池様のこれまでのご経歴を教えてください。
僕は高卒で就職したのですが、実は半年で辞めてしまいました。この頃にちょうどアニメイトグループができたので、友人に誘われてアルバイトとして入社しました。友人も僕もモノが作りたかったので、そこで一緒に「月刊アニメイト」という薄い情報誌のような冊子を作っていました。アニメ版の「ぴあ」を作りたかったんですよね。
── アニメイトさんに入社する前にもエンターテインメントには興味があったのですか?
もともと漫画や音楽などといったエンターテインメントが好きでしたね。月刊アニメイトが一区切りついた時に社長に「辞めます」と言ったら、「明日から社員な」って言われてしまい…(笑)。本当はモノづくりの方に進みたかったのですが、社長から「菊池は店の方が似合うな」と言われ、アニメイトの店舗に4年ほど在籍しました。その間に店長も経験しました。
当時、あるメーカーさんが音楽モノのLPレコードを出したりしていたので、「音楽をやりたいな」と思っていると、「うちに来ないか」と声をかけてもらえました。それでまた社長に「来ないかって言われたので辞めたいです」と言ったら、「うちでやればいいじゃん」と言われ、店舗から制作の方に移りました。
── 社長さんはきっと菊池さんを手放したくなかったのでしょうね…。
そうだったら嬉しいのですが(笑)。当時、アニメイトグループでは音モノを作っていなかったので、さまざまな人から聞きながら作っていった結果、「マリン・エンタテイメント」というレーベルに育ちました。アニメイトには22年間在籍し、さまざまな作品のプロデュースを行いました。
在籍中はヒット作も出したのですが、問題が起きて作品が止まってしまったこともあり、その際は周りの人が助けてくれました。そのなかで、「菊池、ちょっと会社で空いてるポストがあるからやってみないか?」と言われて、じゃあやってみようかと思い、会社に入って社長のようなことを始めたのが、ノワの前の前の会社です。
── その会社では、どのような事業をされていたのですか?
コンテンツプロデュースと声優業ですね。「会える声優グループ」として、声優の卵の女の子10人ぐらいでアイドルグループを作って、月に1回ほどイベントをやったり歌を歌わせたりと、さまざまなことをしていました。
プロデュースや制作の仕事をこなしていくうちに、古巣のアニメイトから仕事がいただけるようになって、どうにか回り出しました。
あるとき、上場会社に吸収されたのですが、そこから勝手が違うようになってしまいました。そのとき、一緒にいた人たちのなかのある一人から、「自分の持っている会社が休眠状態なので、そこで社長として制作をやってくれ」と言われて「わかりました」と返事し、社長になった会社がノワの前身にあたるスタジオノワです。
── 最初のアニメイトさんから今に至るまで、菊池様のお人柄があるからこそだと思いますが、周囲の方との関係性でステップアップしてこられていて、すごいですね。
そうなんですよ。本当にそういう意味では、さまざまな経験があってよかったと思っています。ちょうどいいタイミングで助言や助けがあったからこそ、ここまでやってこれた感じです。僕のなかでずっと人の縁がすべてだと思っています。それは社員もお客様も含めてです。さまざまな人を含めて縁だと思っているので、みなさんを大事にしたいです。
今、弊社でしているウェブラジオが15周年なんですが、当時は音響の仕事が大手に流れて仕事がなかった時に、マリン・エンタテインメントで行っていたラジオの企画制作の下地があったのでラジオをやりはじめました。それが15年経過した現在でもわりと人気があります。そのようなことができるのも、たくさんの人に支えられているからだと思います。
「やれることはなんでもやる」が最大の強み
── 次に、ノワ様の事業内容を教えてください。
最初は音響制作を行う会社でしたが、メーカーの要素を持っている今のような形になりました。アニメイトでマリン・エンタテイメントにいた頃、プロデューサーとしてモノを企画して発注し、制作側に作ってもらったものを発売していました。
その頃から自分で作れたらというか、メーカーと音響を作る場所が一緒だったらすごくいいだろうと思っていたんです。しかしその頃は提案してもなかなか通らなくて、じゃあそれを自分でやってしまおうという流れでした。
── サイトを拝見すると、もともと漫画・イラスト制作を目的に起業されておりますが、どうして音響制作にも力を入れていこうと思ったのですか?
漫画・イラスト制作はほとんどしていなくて、もともとプロデューサーなので音響制作をメインとしてそこにさまざまなメーカー的要素を入れた今の形態になっています。アニメイトグループやマリン・エンタテイメントでしていたことを全部やっているので、お店はないですが「小さなアニメイトグループ」みたいな感じです。
「やれることなんでもやっちゃおう」という形なので、コンテンツの企画制作からイベントもやるし、グッズも作るし、通販もやるしといろんなことをみんなでやっています。
── お客様はどのような方が多いでしょうか?やはり、アニメ関係の方が多いのですか?
男性声優さんのコンテンツがメインになっているので、声優ファンが多いです。年代的に言うと、メインは20〜30代の女性ですね。また、イベントとグッズが売り上げのほとんどを占めています。あとはスタジオ事業、動画やウェブラジオなどの配信事業です。
── ノワ様の強み・魅力を教えてください。
強みは何でもやることですね。漫画からアニメ、声優、ゲームまでエンターテイメントにまつわるさまざまなことができるといいなと思っていて、配信ができる動画スタジオも思い切って作りました。2023年10月からはライブハウスを持つのでイベントもできるようになります。
あともう1つが「音楽ダウンロードカード」です。CDプレイヤーを持っていない人が増えたことや、違法アップロードによってCDの売上が大分落ちました。それで配信の方に動いているのですが、配信とCDのハイブリッドのようなものがないかと思った時に、ダウンロードが1回だけできてアップロードもできないというQRコードのシステムを作っている会社と提携をしています。
スマホで聴けて、かつ日本人の「モノ」としてほしいというニーズにも合っているので、今後は本格的にどんどんやっていこうと思っています。
── 本当になんでもできる会社なのですね。
そうなんです。社員のみんなが本当に頑張ってくれているので。イベントを取り仕切る社員もいれば、ラジオの構成台本を書いたり、ブッキングしたり、内容を考えたり、グッズを作ったりと一人が複数の仕事をできるような感じになっています。もうみんなでしっちゃかめっちゃかしている感じで、みんな大変とか言いながら仕事をしています(笑)。
── 大変そうですがすごく楽しそうですね。
社員たちが楽しんで仕事しているのを見られたらいいかなと思っています。でも実は、僕はアニメイト現会長の高橋豊さんをすごく尊敬しているのですが、彼は「楽しければ、仕事じゃない」というのを理念としていて、私はこれにとても共感しています。
楽しいとか楽しくないという次元と違うところにある仕事を、どのようにして楽しくするのか、「苦しいものをどう楽しくするのか」が重要だと思っているので、何の仕事でも楽しむことが大事だと思っています。
── 具体的にはどのようにされていますか?
気分を変えるしかないですね。あとは愚痴る。成功している人は大体「愚痴を言っちゃいけません」とか言っていますけど、「ためてもしょうがないので愚痴れ」と思っています。で、言ってすっきりしてから、言ったことをもう一回省みてどのように生かすかが大切だと思っているので、僕も全部愚痴りますし、社員にも愚痴れば?って言っています。
まず吐き出せ。その次に前向きなことを考えるようにしています。あとは愚痴った相手から前向きな言葉をもらえるならば、それをうまく取り入れる方が溜め込むよりずっと建設的だと思っています。
「日本のエンターテインメントを守りたい」
── 会社のカルチャーを教えてください。ここまでお話を伺っていると、気軽に何でも言えそうなイメージです。
そうですね。でも、社員のみんなは僕には気軽に何でも言えないと思います。うちの会社は僕が作りたいものを作るところから始まっているので、どうしてもトップダウンになってしまいます。ただ、あまり年功序列は気にしないですし、男女格差はありません。とにかく、仕事をして楽しんでもらえばいいだけだと思っています。
── 先ほどの愚痴のお話もですが、ノワ様は自由度も高くてすごく組織として健全ですね。今後どのような会社にしていきたいですか?
変な話ですが、現在の日本はさまざまな企業が工夫して頑張ってなんとか保っているだけで、これからの日本はすべてが先細りだと思っています。ですが、日本人として生まれ育っているので日本は大好きだし、どうにかしたいので「日本のエンターテインメントは守りたいな」と思っています。そのためにできることはなんでもしてみたいです。
エンターテインメント「なくても困らないもの」ですがあってほしいものですし、あった方が豊かになります。そのようなものをどうやって守っていくかを考えるのが大事だなと思います。
また、ライブハウスを持つのは、もともと夢のひとつでもありました。発信できる場所を増やし、そして発信する人同士がうまくつながって、いい意味でのエンターテインメントを含めたメッセージの発信ができたらいいなと思っています。
── 最後に、菊池様から伝えたいことはございますか?
当社はラジオだけではなくて、ニコ生、生放送、番組制作などさまざまなことをやっています。そして音響スタジオ及び動画スタジオや新しいライブハウスのレンタルも行っています。個人の方でも大丈夫なので、発信したい人が使ってくれると嬉しいです。
── 私もカルチャーが好きな者の一人として、すごく応援したいと思っております。非常に面白いお話をありがとうございました。