「会社の財産は『人・モノ・金・情報』ではなくて『人・人・人・人』だと思っています。」
そう語るのは、大阪なんばにある社会保険労務士事務所の渡辺代表。
「利益を生むのも人、新しいサービスをつくるのも人、人を育てるのも人。お金や物は再現性があるけど、人だけは去っていくともう手に入らないんです。」
今回は、社会保険労務士法人 渡辺事務所様にインタビューをしました。クロジカ請求管理のカスタマー様です。労務の専門家であり、かつ自らも経営者として従業員と常に向き合っておられる渡辺様にお話を伺いました。
目次
実家が自営業を売却。事業家人生のスタート。
── 渡辺様のご経歴を教えてください。
私の父は兵庫でビジネスホテルを営んでおり、自営業の子供として育ちました。しかし高校2年のときに阪神・淡路大震災があり、自宅兼ホテルの建物の建て直しが必要となり、いきなり商売がなくなる経験をしました。思えばそこが自分の事業家人生のスタートでした。
2000年に大学を卒業、日本マクドナルドに就職して3、4年ほど働きました。マクドナルドに入社した理由は、入社説明会の資料で「10年目で年収1,000万が可能です」というキャッチコピーを見たからです。
「35歳までに、できたら20代のうちに、年収1,000万稼ぐ」と中学生くらいの頃から考えていて、父にその話をしたら「お前は稼ぐことをなめてる、仕事をなめるな」とすごく怒られました。
しかし社労士(正式には、社会保険労務士と呼びます)資格を取り、営業を学ぶために副業を3年ほどやったあと、自分で社労士事務所を始めると、結果として商売をしていた父の当時の年収をすぐに抜きました。30歳の時に開業し、今年で16年になります。
社労士として開業するまで
── なぜ社労士の資格をとり、開業しようと思ったのですか?
マクドナルドに入社したあと、将来を考えたときに最初は「長男だし親の跡を継ごうかな」と思いました。
しかし、父には商売をやっていて「これ」というものがありますが、自分にはそういう看板もなくマクドナルドの「M」という大きな看板で仕事をさせてもらっているだけでした。
いざ20代半ばに差し掛かって自分の人生を見たときに、このまま転勤があって、給与がある程度決められていて、自分の人生のハンドルを自分で持たず、ただ大きな組織に守られてるだけだと不甲斐なさを感じました。
「小さくてもいいから舵を取りたい」と思ったときに、「まずは何か資格を取ろう」と考えました。資格を持てば自分に箔が付き、人生の武器が手に入るような気がしたのです。
そういった理由で社労士資格の勉強を始めました。社労士資格をとったら開業しようと考えていましたが、一方で、受験は1回だけとも決めていました。「1回でだめだったら縁がないから違うことをしたらいいや」と。もし1回でだめだったら超ブラックの営業会社に行って、完全歩合制のなかでゴリゴリの営業マンとして稼ごうと思っていました(笑)。
── お話を伺っていると、渡辺様なら何をされても成功するんだろうなと思います。
いえいえ、今でこそこのように喋れていますけど、結婚をした26、7歳の頃の自分の写真を見ると、自信のなさそうな、本当に仕事できなさそうな顔をしていますよ(笑)。
しかし、自分で事業を始めて「やらないと飯が食えないから、死ぬ気でやるしかない」とへろへろになりながら、お客様に怒られてもしがみついてやっていったら、少しずつ自信がついてきたというだけです。
中小企業こそ社労士へ依頼すべき理由
── 渡辺事務所様のサービス内容を教えていただきたいです。また色々サービスがある中でどういう依頼が一番多いですか?
中小企業では社労士をご活用されている企業も多いと思いますが、給与計算や社会保険の取得・喪失などの手続き、労務相談対応などの総務代行業務がサービスの一つです。
総務は人手不足になりやすく、かつ属人化しやすい職種です。人手不足なので生産性を上げて、DX化したい一方で「自分の仕事がなくなるかも」という総務担当者の恐れからDX化に積極的でないことも多いです。
そういった背景から「最初から総務を外注したい」というニーズが多いです。
事務的な作業や、入退社関係の手続き、それに関連した従業員さんとのやり取りなど、私たちが社内の総務の代わりに労務周りを全てやります。他にも社内のルールや人事制度を作ったり、雇用保険の財源として助成金の提案から申請代行をしたりなど、「社外総務」といった感じです。
── クロジカのユーザーには中小企業の方が多くいますが、中小企業が社労士に依頼することの意義を教えてください。
中小企業の場合、会社で総務を雇うとしても大体1人か2人です。そうなると業務が属人化しやすく、その人が辞めたらまた次の人に一から依存しなければいけなくなってしまいがちです。
中小企業にも営業や開発などは社内にリソースを溜める仕組みのある場合が多いです。しかし、総務はとても大事なディフェンス部分であるにもかかわらず、リソースを溜める仕組みがない場合が多いです。
会社経営や事業で重要なのは継続性と再現性なので、どのように社内のリソースを溜めるかが重要です。そのため、重要なリソースこそ属人化させず外部のパートナーに委託した方がいいと思います。
士業では珍しい「売上給与連動制」を採用
── 貴法人の強みはどこだと思いますか?
社内的には、当法人の「売上給与連動」という人事制度が当社の強みを生み出していると思います。
多くの士業事務所の場合、新規の契約を取ったときに喜んでいるのは所長さんだけで、担当者は誰も喜んでいません。なぜかというと、新規案件を受けたら自分の仕事が増え、帰る時間が遅くなるのに自分の生活は変わらないからです。評価制度はあってもインパクトがないので、「自分の成果そんな変わらへんやん」と思ってしまいます。
その点、当法人は売上と給与を連動させているので、従業員は積極的に自分で仕事を取りにいきます。
── 士業事務所で売上給与連動は珍しいですね。それなら確かに積極的に案件を担当したいと思いますね。
そうなんですが、制度だけあってもスキルが伴わないと結局お客様に迷惑をかけるので、どうやればミスがなくなるのかも常に試行錯誤しています。
RPAを組んだりAIを入れたり、エクセルで関数やマクロを組んだりと自動化を進めていて、完璧ではないですがいわゆるヒューマンエラーは極限まで少なくしています。
それもあって、スピーディーで積極的な対応につながっているのが当法人の強みです。
人事制度を作る上で大切なこと
── 貴法人で働かれている社員の皆様はどのようなことを意識して働かれていると思いますか?
どうでしょうか・・・でも皆優秀ですよ。幹部社員は年収1,000万円を超えている者もいますし、前職給料の2倍、3倍になっている者も中にはいます。お客様にも「どうやっているの」と驚かれます。
「お客様のため」「会社のため」というのはもちろんありますが、本音を言うと、人間なので「自分や家族のため」にしか頑張れないと思うんです。
そのため当法人では「時間とお金と働き方の自由度」を大事にしていて、色々な仕組みを入れています。
── 先ほどお話いただいた「売上給与連動制」もそうですが、貴法人は会社に合った人事制度がしっかりと整っていらっしゃいますね。
社労士は労務の専門家ではあっても、人事の専門家ではありません。しかし人事のことを相談されることも多くあります。
当法人の人事制度はある意味ショールームとしての目的もあります。「我々はこのような人事制度を作って運用していますよ」とお客様に示すためです。
なぜそのようなことをするかと言うと、私自身は「人事制度はそんな外部の人間が口を出せるほど簡単なものではない」と思っているからです。
それぞれの会社に色があるので、「社長の会社は社長しか作れないよ。助言はできるけど、コンサルはやらないよ」と言っています。
── 人事制度についてはどのような助言をされることが多いですか?
人は決められたことに反論しがちなので、人事制度も「自分たちでハンドルを持つ」ということが大事です。当法人では「自分たちみんなで納得感を持って決めていこう」という意識を持ってもらうようにしています。
経営者のパートナーとしての社労士とは?
── 中小企業の経営者向けに、士業のパートナー選びのポイントを教えてください。
一言で言うと「視座に差がないか」ですね。
伸びている会社が現状維持でいいという税理士事務所や社労士事務所と付き合うと、自分の視座とずれた助言をされることがあります。だから視座が同じくらいのパートナーがいいですね。成長したい経営者は成長しているパートナーと、現状維持でいい経営者は同じ考えのパートナーと付き合った方がいいと思います。
── 今後会社をどのようにしていきたいですか。
やはりお客様に選ばれるような「深さと幅」のあるサービス提案をし続けたいですね。どれだけ省力化して、どれだけかゆいところに手が届くかを常に考えています。
総務業務の外注も、給与計算だけでなく応募者対応から面談等の採用支援、採用後の契約書作成、入退社手続き等丸ごと委託できるように、さまざまなツールを導入しています。
お客様の手間と当法人の手間も減らしながら、どうやったら生産性も給与も上げられるのかも常に考えています。
またグループ会社では、外国人採用の支援もやっております。国指定の登録支援機関でもあり、外国人雇用支援だけでなく、雇用後の労務管理に関する相談まで承ります。
現在、インバウンド需要を活かして外国人技能実習生にホテル清掃業務を紹介し、そこから他のホテル業務のアウトソーシングをご依頼いただけるよう動いています。
経営の資源は「人・人・人・人」
── 渡辺様ご自身は、社労士そして経営者としてどのようなことを意識して働かれていますか。
「得意ではないことにも挑戦する」というのがポリシーです。
5年ほど前から趣味としてトライアスロンを始めたのですが、今年はアイアンマンというトライアスロンの大会にチャレンジします。
「3.8㎞泳いで、180㎞自転車漕いで、42.195kmフルマラソン」という「鉄人」と言われている大会なので、そのためには日々練習と節制をしないといけません。
なぜ得意ではないことにも挑戦するかと言うと、経営者は楽ができるんです。ある程度事業がうまくいくと、苦手なことは幹部に任せて、どんどん自分の人生に苦手なことを入れないようになっていきます。
人は苦手なことを避けていくと吸収力がなくなるので、しんどいことを選ばないと駄目になります。ですから新しいことにも取り組み、事業でも新しく法人を作ろうとしたりと色々やっています。
── 得意ではないことにも挑戦して、しかもそれを着実に極めていらっしゃるのが素晴らしいです!
ところで渡辺様のX(Twitter)やTikTokを拝見しましたが、ひとつひとつの投稿がコンテンツとして質が高く、しかも毎日のように投稿されていますよね。どのように運営されているのですか?
もちろん、どちらもコンサルティングを入れていますよ。SNSに限らず、必要であれば外部のパートナーをどんどん入れます。社内でやるよりも、能力高い専門の方に組んでもらった方が早いですから。
パートナーへの出費を惜しんではだめだと思っています。紹介が生まれたり、良い気が流れたりするので、従業員も含めてパートナーへはしっかり払うことがすごく大事です。
会社経営で一番大事なことは、利益をあげ続け、会社を継続させることです。
会社経営の資源は「人・モノ・金・情報」と言いますが、私は「人・人・人・人」だと思います。
「モノ・金・情報」は一時的に流れたとしても再現性がありますが、「人」は一回流れたら絶対戻ってきません。
会社の財産は、「人・人・人・人」だという考え方を持った経営者がもっと増えたらいいなと思っています。
── 経営者と従業員がベクトルを合わせ、顧客に対して価値を生み出して利益を上げていくにはどうすれば良いか。渡辺様のお話の中に、そのヒントがたくさんあると感じました。本日はありがとうございました。