人事制度の根底にある、TOWNの考え方

人事制度には、その組織の考え方が現れます。

今回は、TOWNの人事制度について代表取締役の永井さんにインタビューをしました。

なぜ絶対評価を採用しているのか、なぜインセンティブのない設計にしているのか、「個人目標の達成」と「人事評価」の関連性についてなど。人事制度についての疑問を深掘りして聞いてみると、TOWNが組織として大切にする考え方が分かってきました。

※TOWNでは人事評価制度の資料を公開しています。資料に目を通した上で記事を読んでいただくと、より理解が深まるかと思います。

ビジョンを実現する人事制度って?

── 「ビジョンを実現する人事制度」というコンセプトについてご質問です。どのようにビジョンの実現を人事評価に結びつけるのですか?

人事制度について話す前に、まず前提にある「会社のビジョン」と「個人の目標設定」の関係性について説明しますね。

ビジョンは定性的な目標で、それに対になる定量的な目標がゴールです。なので、ビジョンとゴールは確実にセットです。TOWNのビジョンは「日本を代表するサブスクリプション・テックカンパニーをめざす」で、ゴールは「2025年 企業価値◯億円(社外秘のため伏字)」です。

この企業ゴールから逆算して、事業部やチームごとのゴールを設定して、そこから因数分解して事業部とチームの行動目標が決まります。それが最終的にメンバー個人の成果目標、行動目標の数字となっていきます。一般的な目標設定ではありますが、TOWNでもこのように企業ゴールから逆算して個人の成果目標・行動目標を設定しています。

── なるほど。では、その個人目標をどのように人事制度に対応させていくのですか?

TOWNの評価制度の中には「①バリュー評価」「②スキル評価」「③業績評価」の3つがあります。

そのうち「①バリュー評価」「②スキル評価」は行動目標と、「③業績評価」は成果目標と関連しています。

「①バリュー評価」はTOWNの5つのバリュー(※)や行動方針とのマッチ度を確認します。「②スキル評価」は、ポジションで求められている職種スキルの習得度を確認します。

「その行動はビジョンに向かっているか?」「行動目標達成のためのスキルは習得できているか?」のような意味で、個人の行動目標と関連しています。

※ TOWNの5つのバリュー:「おかげで助かった!を増やそう」「N個の個性を生かす」「伝わる明文化」「逆算思考」「最小最速」

そして成果目標に関連するのが「③業績評価」です。TOWNは「チームで成果をあげる」という考え方のため、個人の成果目標の達成度合が直接的に評価に反映されるのではなく、事業部単位の業績で評価しています。

そして、評価の比重はメンバーのステージによっても変わります。スタッフ層には「いきなり成果を出して」というよりも、まだ行動結果による評価の比重が大きいです。リーダー層で行動と成果が半々程度に、マネジメント層では成果の比重がかなり大きくなります。このように成果と行動の評価比重が少しずつグラデーションで変わります。

個人目標と、人事評価の結びつきって?

── 個人の行動目標・成果目標が、評価制度と関連していることはわかりました。しかしあまり直接的な関係性ではないというか。なぜ人事評価で個人の成果・行動目標の達成度合いを、直接評価しないのですか?

TOWNの人事制度で重視しているのは「行動目標や成果目標を目指すには、どういったスキルやバリューが必要か」です。具体的な数字目標を評価するよりも、定性的な側面を重要視しています。

── それはなぜですか?

数字の結果だけで評価すると短期の成果だけに集中してしまい、そのメンバーはポテンシャルを発揮できないだろうと思うからです。それではメンバーのキャリアに得していないので。

── しかし企業ビジョン達成への進捗を測るために、せっかくゴールとして数値で目標を設定したのに、それが人の評価になった時には変わるのですか?

そうですね。ここはもしかしたら組織の在り方としての価値観なのかもしれません。

そもそも当社の人事制度は「成果を出したらインセンティブを出します」といった制度設計にはなってないので、「成果目標・行動目標を達成できる人材が育成されることが重要である」という考えです。達成できるような人材にスキルアップやキャリアアップ、人間力を上げてもらうための人事制度です。

── 企業ゴールを達成するには一人ひとりの成果目標の達成が必要だけど、その人自身を評価する時には数字目標の達成可否で判断するのではない。達成できる人材に成長していくような人事制度にしている、ということですか?

そうですね。確かにここの繋ぎ込みは難しいといえば、難しいですね。

「売上を上げたらインセンティブが発生します」という人事制度は、数字で判断できるため分かりやすいと思います。でも成長する過程で、メンバーと会社がお互い対話を通して、いろんな可能性を見出していく方が、TOWNでは重要です。

例えば、採用広報ポジションも同じです。「求職者から自然応募があったらインセンティブが発生する」とか「それを達成できなかったら評価が上がらない」と設計する方が簡単です。だけどもしそうしていたら、おそらく今のような中長期の成長に繋がる仕事は発生していません。

── 確かに、すぐに成果に繋がりそうなことだけをすると思います。

もちろん短期的な成果も大切だけど、それだけだと中長期的に積み上げにくくなりますよね。広報に期待しているのは、中長期的に会社の認知を上げて、潜在ステークホルダーが当社へ関心がある状態を作ることです。

中長期視点で考えるからこそ、マンガも記事も作り方が変わってきて、他の会社にはできない表現方法が積み上がります。そういうことの方が大切だと考えていて。その方がレバレッジが効くというか。インタビューやマンガを発信する過程で、広報の仕組みが作られていることが重要です。それが企業価値を高める上で必要だと思っているからやっています。

── 企業ビジョンに向かって、メンバーと一緒に成長していくことを想定して制度を作っているのですね。

そうですね。だって「ゴールの企業価値◯億を達成するために、こういう人材であるべき」っていうのが分かっていたらそのように設計すべきだけど、そんなわけなくて(笑)。

メンバーの強みに合わせて「TOWNのビジョンとゴールに向かうために、こういう風に力を発揮してもらった方がいい」と行動目標も成果目標も変わっていると思います。

── 本当に「N個の個性がある」という前提で組織が作られていますね。メンバーの個性に合わせて目標設定を調整しながら、ビジョンに向かっていくという。

そうですね。というのも、結局人はロボットでもAIでもないから。やりがいみたいなことがどこかで必要で、そこも一緒に生み出せないとビジョンに向かえないしゴールを達成できない。

絶対評価にした理由

── 絶対評価にしている点も、当社の特徴だと思います。なぜそうしようと思ったのですか?

そもそも、みんながビジョンに向かっているのなら、何かしらみんなは会社に貢献しよう、成長しようとしているはずだから、相対評価はないというのが前提にあって。

先ほどの話にも通じますが、TOWNのビジョンとゴールを目指したのは、TOWNにいるメンバーしかいないはずです。そしてメンバーはみんなハイポテンシャルな人材(伸び代がある人材)だと考えています。そう考えると、その人が伸びた分だけ評価されるというのは当然です。だから絶対評価にしました。

── かなり思い切って決断したと聞きました。

そうですね。相対評価だと人件費はほとんど変動しません。でも絶対評価は、みんなが成長していけばそれだけ報酬が増えていくような人事制度です。実際にTOWNでは毎年人件費が増えています。

── 先ほども少し話題にあがりましたが、例えばインセンティブとして個別で報酬を上げる方法もあるかと思います。そうでなくて、全体で上げていく方針なのはなぜですか?

社会人経験を積んで色々な試練を乗り越えていくなかで、「一人の力って、大した力じゃないな」と自分自身でも感じていて。チームメンバーそれぞれが役割分担して力を発揮してくれている状態の方が、絶対に会社が大きくなります。なので誰か一人が売上を上げたらインセンティブが発生するというよりも、業績評価の形で全員に還元される方が健全だと思いました。

インセンティブを大きく出した場合、「自分だけの力」と誤解を与える人事制度の構成になってしまいそうで。営業にたどり着くまでに、開発メンバーや企画メンバーが関わっていたり、その人材が揃うのは採用メンバーがいたりとか、全てが絡んでいるはずです。一人で評価されたいのであれば、フリーランスになった方が手っ取り早くて。

でも同じ会社で、同じ方向に向かっている仲間であれば、みんなに山分けに近い形で還元する方がいいと思いました。

評価制度は完璧じゃない方がいい

── 私は個人的に「誰もが納得する完璧な人事評価制度」は存在しないのかなと思っています。「人事制度は完璧ではない」という前提の上で、TOWNで気を付けていることはありますか?

逆に完璧な人事制度が出来上がることは良くないと思っています。メンバーは人で、ロボットではないので。人が流動的なように、人事制度というのも完全に決め切ってはいけないと思う。むしろ不完全である方が良い。

── 制度に変える余地を残す、ということですか?

変える余地を残すし、決め切らないということですね。例えば、評価制度の中の「スキル評価」の項目も、事業部ごとに変えていっています。事業部の状態によって必要なスキルも異なるので、内実に合うように常に更新しています。

── なるほど。確かに常に更新している印象があります。

もちろん評価についてしっかりとフィードバックするのは大前提ですが、その上で気をつけていることは、「N個の個性がある」前提で制度を作っているので、決め切らないのも重要なんじゃないかなと。

ただ、決め切らないけど「ここら辺を評価しているよ」とフィードバックは必要です。でもそのフィードバックの方法も多分正解はなくて。評価制度ってむしろメンバーとのコミュニケーションのツールなのかなと思うようになっています。

── 評価制度自体がコミュニケーションツール?

メンバーも会社もお互いに成長しようとしているけど、自分が納得いくような成長ができているか確認する意味でね。もし人事制度がなければ、それを感じるタイミングもないと思います。

なので人事制度は「評価する人 / される人」とジャッジするよりも、人事制度を通してメンバーと会社がコミュニケーションをとるものと考える方が、機能するんじゃないかと思っています。

── なるほど。だから自己評価も行っているんですね。

そうですね。個々の個性を全て網羅した人事制度はありえなくて。個性を生かすのであれば、人事制度は最終的には対話のツールとして存在価値があるのではないかと思っています。

── インタビューを通して、「ビジョンに向かってメンバーも会社も一緒に成長する」「逆算思考」「チームで成果を出す」「N個の個性を生かす」など、TOWNが大切にしている考え方が伝わりました。ありがとうございました。