【建設業向け】大阪万博の工期問題から読み解く対応策とは

こんにちは。「クロジカ大容量ファイル管理」建設業ライターの東海林です。

2025年に開幕する大阪・関西万国博覧会が掲げるコンセプトは「People’s Living Lab=未来社会の実験場」です。「SDGsや脱炭素社会などのテーマ」✖「デジタル技術や次世代モビリティなどの最先端技術」を万博会場に取り込むことにより、大阪万博そのものを近未来社会のショーケース(展示会場)にしようとする野心的な試みです。
参考資料:内閣官房による「2025万博アクションプラン概要」

政府や万博協会からの呼びかけに応じて参加表明をした国や地域は令和5年春までに153に達し、政府・主催者の当初目標を上回りました(国際機関の参加数は目標に届いていません)。開催国としてはなんとか面目を保った格好です。

ところが、開幕まで2年を切ったにもかかわらず、タイプAに属する海外パビリオンの建設について目に見える進展がありません。2023年8月中旬までに大阪市へ提出された「基本計画書」は僅かに2件(計画では50件超)にとどまっており、パビリオンの建設許可を求めるための「建設許可申請書」の提出はいまだ皆無です。

今回は、海外パビリオンの建設が停滞している背景と建設現場における対応策について、現場管理者の視点から探ってみます。

提出されない「基本計画書」

海外パビリオンは次の3つのタイプに区分することができます。

・タイプA:参加者が自費で建設する
・タイプB:万博協会が建設する建物を単独で利用する
・タイプC:万博協会が建設する建物を複数の国・地域で共同利用する

このうち、停滞が問題視されているのが万博の華とも言えるタイプAです。参加国・地域の威信をかけて建設されるパビリオンと言っても過言ではありません。

合わせて50件を超えるタイプAの計画のうち、この記事を執筆している2023年8月20日の時点で「基本計画書」が提出されているのは韓国とチェコによる2件のみです。大阪市は審査を簡素化することで建設認可までの審査期間を短縮することを表明していますが、「建設許可申請書」どころか事前書類の「基本計画書」すら出てこない現状を踏まえ、建設業界からは予定通りの万博開催を危ぶむ声さえ聞こえるようになりました。建設業者との調整が進んでいると言われている10件ほどを加えても、タイプAの大部分について具体的な動きが見えない状況が続いています。
参考資料:大阪市「大阪万博における仮設建築物許可基準等」

積み重なった悪条件

大阪万博の建設計画が大幅に遅れてる原因は複数あります。それらが積み重なった結果、発注者も建設会社も互いに身動きが取れなくなってしまいました。メイン会場やテーマ館などホスト側が発注する工事でさえ入札が成立せず、発注金額や施工内容を見直した再入札で発注に漕ぎつけた経緯があります。万博建設を難しくしている具体的な悪条件とは何を指しているのでしょうか?

1.短縮された準備期間

新型コロナの世界的な流行によりドバイ万博が1年間延期されて開催されたことは周知の通りです。このドバイの延期が大阪万博に向けた準備期間を奪い、結果的にタイトなスケジュールとなって大阪にしわ寄せられました。

このまま主催者が予定を変更しなければ、大阪万博は準備期間にコロナ禍が被っていたにも関わらず、通常よりも1年間短い準備期間で開催されることになります。この点では、大阪万博の整備は当初から厳しい条件下でスタートしたと言えます。

2.急騰した建設コスト

コロナ禍がもたらしたサプライチェーンの寸断やウクライナ戦争による資源・エネルギー価格の高騰により、建設資材は国際的に大幅に値上がりしたままです。これに円安進行が追い打ちをかけ、国内の資材価格は更に割高となっています。

当初の建設予算では資材調達ができず、同時に日本では建設作業員が逼迫した状態が解消されません。「材」「工」のどちらも高騰した状態で工期的に切迫した建設計画をこなすためには、当初予算の大幅な見直しを避けられません。官民を問わず、建設計画が見直しされるケースが相次いでいるのはこのためです。

3.建設現場における2024年問題

更に関係者を悩ませている問題があります。働き方改革による建設業の2024年問題です。現場従事者の労働時間に制限が設けられるため、来年度からは例え労使間で合意があっても無制限な残業が禁止されます。この問題については主催者側から政府に対して緩和措置の申し入れがあったとの報道が流れましたが、法律改正の実質初年度から大々的な特例を労働基準監督署が認めると考える人はごく一部です。発想そのものが時代遅れであり、「近未来の実験場を昭和に戻すのか?」「大阪万博のテーマからあまりにも逸脱しているのではないか」との指摘すらあります。

このため、大阪万博へ建設作業員を大量投下しようとすれば、同時期に計画されている他現場からの配置転換を広範囲で促すしかなく、労務需給は一次的に一段と逼迫するとの見方が支配的です。

この他にも、最近の夏場の気温による作業効率の悪化、人工島という立地条件の悪さを指摘する意見も聞かれます。立地条件の悪さについては、資材や作業員を確保できた場合であっても、輸送がボトルネックになり作業が遅延する可能性が考えられます。毎年のように発生している突発的な自然災害への対応についても想定しておく必要があります。

相次ぐ支援策は奏効するのか

パビリオン建設のスケジュールを取り戻すため、主催者及び行政からは支援策が矢継ぎ早に提示されています。主催者による一連の動きからは、厳しい条件にあっても万博を成功させようとする熱意が伝わってくる一方、開幕スケジュールへの焦りが垣間見えます。具体的に打ち出された支援策はどのような効果が期待できるのでしょうか。

建設代行案

参加国・地域にかわって建設代行する案は、このままでは間に合わなくなるとの危機感を抱いた主催者側が参加者に手を差し伸べたものです。しかし、各国・地域が独自テーマを表現する場であるパビリオンの建設を第三者が代行するのは難しく、大きな効果は期待できそうにありません。開幕に向けてさっさと契約を結ばせるだけであり、根本的な原因であるコスト増大への対策にはなりません。

「主催者側の都合だけを前面に押し出した支援策にしか見えない」とする厳しい意見や「計画時からのコスト増分を主催者が支援するなら話は別だ」との声が聞かれました。実際、パビリオンAを除く部分の整備ではコスト増分を否応なしに主催者が負担せざるを得ません。

万博貿易保険

経済産業省が適用を決めた万博貿易保険には一定の効果があると期待されています。原則面での条件があるものの、発注者による日本の建設会社への建設代金の未払いや遅延が発生した場合、貿易保険を適用してコマーシャルリスクに対しては代金の100%、カントリーリスクに対しても100%または97.5%の政府保証が得られます。

好意的な反応が多かったなかで、ごく一部では「もっと早く公表すれば良かった」「タイプAでは財政面に懸念のある発注者が少ないため効果は限定されるだろう」「さらに税金を投入するのか」とする意見もありました。
出所:日本貿易保険「万博貿易保険」

完成時期の実質緩和

主催者側が定めているパビリオン建設スケジュールに関するガイドラインが厳しく、これが工事受注の障害になっているとの声があります。これに呼応するかのように、協会は会見の席上で「ガイドラインは努力目標」として、事実上の開幕後工事を許容する考えを示しました。開幕後の残工事をどの程度まで認めるかについては主催者のみならず発注者の意向にもよりますが、実質的な工期緩和に繋がるとして歓迎されています。

夢洲へのアクセス改善

万博会場のある『夢洲』は人工島です。陸地とは夢舞大橋と夢咲トンネルを通じて接続されており、万博開幕後も車両でのアクセスはこの二つのルートに限定されます。このルートについては、万博の建設工事用としては貧弱であるとの指摘があります。整備計画の当初から、夢洲での工事が本格化すれば橋とトンネルは渋滞することが予測されているからです。

また、夢洲には店舗や宿泊施設がありません。まだ何もない埋立地ですから店舗がないのは当然です。この何もない人工島を作業員は毎日、トンネルまたは橋を利用して往来するしかなく、資材などの陸上輸送も同じルートで行われます。資材搬入が集中するタイミングでは車両渋滞やコンテナの滞留が発生することは容易に予見できます。これらの問題のうち、工事関係者の通勤については既に専用の大型バスをピストン運行させる対策が講じられています。この対策については建設工事の脱炭素に貢献する対策として評価できます。

工程管理と現場連携

工事を請け負った建設会社による対策も忘れてはなりません。対策は決して特別なものではなく、日常の作業現場で検討されているものばかりですが、日々の現場で培われてきた基本的な経験値ほど夢洲のような現場で効果を発揮します。

工程の最適化

どの現場においてもコスト削減と工期短縮のために工程の最適化を検討します。脱炭素の面からも工程最適化は欠かせない検討項目の一つです。作業全体における優先順位を見直し、クリティカルな工程を再評価します。同時に作業の平行化・並列化により工程を最適化させます。

資材調達における連携

資材調達ではメーカーや代理店などとの連携が一段と重要になります。工期が切迫している現場では資材の調達・搬入計画は最優先課題の一つであり、調達先、配送業者、受け入れ現場との綿密な連携は欠かせません。資材調達のミスは工程に取り返しのつかない影響を与えることがあります。

プレハブ化等

現地での作業工数を削減するためにプレハブ率を引き上げる対策があります。最終仕上げを含めた工場制作の割合を増やすことで工期短縮に繋げます。この対策も脱炭素に有効な考え方の一つです。

仕上がりとの兼ね合いを考慮しつつ、現場作業量を減らす工程管理であり、建造物のモジュール化・パターン化もプレハブ化と同じ効果が期待できますが、コンセプトとの摺り合わせや設計などの準備に時間を要します。

協力業者との連携

工期が逼迫している現場においては、主要な協力業者との綿密なやり取りほど重要な管理項目はありません。協力業者とのコミュニケーションをいつもより綿密にし、日々変化する細かな作業工程の変化に対応させます。協力業者と連携しながら進捗を確認・共有し、常に調整を加えることが肝心です。

情報共有とクラウド

作業進捗や作業環境に関する細かな情報共有は切迫した現場管理には欠かせません。現場に関する情報は、より微細に、より早く、より広く共有することが大切です。前述した【工程管理と現場連携】が有効に機能するか否かは情報共有がカギとなるためです。

これから本格化する夢洲全体での工事密度を考えれば、橋やトンネルの交通事情や天候、各作業エリアにおける重機・大型車使用や資材搬入計画などの基本的な情報は、それぞれの建設サイトを超えて夢洲全体で共有されることが望まれます。

そのツールの一つとして真っ先に考えられるのがクラウドによる共有化です。情報の内容によって外部への開放度を個別管理すれば良く、参加者が一目で夢洲全体をリアルタイムに把握できるシステムの構築と集中的なコントロール機能は全体の工程最適化に役立つはずです。

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ライター:東海林

取材記者として約10年、建設会社の経営者及びコンサルタントとして約20年の経験を活かしてライターや企業コンサルとして活動中。幅広い分野への知見を持ち、特に建設業界に関する深い理解や洞察力により実用的な記事執筆を得意とする。

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